simekorosi.jpg昭和の初めからの北海道根室が舞台。昭和十年、十歳のミサエは亡き祖母の奉公先から請われ、新潟の橋宮家から幼い頃を過ごした北海道根室の酪農家である吉岡家へ貰われる。厳しい寒さ、ひたすらこき使われ、抜け出すことのできない地獄の日々で、学校にも通わせてくれない。酷使されるだけでなく、罵倒の限りを尽くされる。必死に生き抜くミサエを助ける者が出て、札幌で保健婦となって根室に戻る。懸命に働いて結婚をするが、娘がいじめにあって自殺。そのことで離婚。その時、お腹には雄介を身ごもっていた。運命の仕業なのか、その雄介は、吉岡家の長男として育てられる。手放したのだ。必死に生き抜くミサエの生涯が第一部、北海道大学に進学した雄介の決断が第二部。北海凍る屯田兵の魂が宿る原野で繰り広げられる厳しい生活と苛烈な人間関係。読んでいて辛いが、「絞め殺しの樹」の凄まじさが心に重く響く。

「人生のうち、最も多くの時間を過ごした故郷。この地で生活をするたびに、多くの苦しみと光が波のように交互に押し寄せてきた。人々のためにと幾度もわたしの身は削られて、もう何もこの手には残っていない。からっぽだ。・・・・・・わたし、もうつかれた」「半ば無意識に全身から雪を払って、ミサエは諦めたようにため息をついた。ああ、やはりわたしはまだ死ねない」「あなた、自分で思っているほど、哀れでも可哀想でもないんですよ」「わたしは、自分の悲しみに、依存していたのかもしれない。この身の不幸によりかかることによって、存在を規定していたのかもしれない」「立てる限りは立つ。死ぬ時までは生きねばならない。枯れかけたこの身でも、いつか完全に枯れるその日までは、理不尽に何もかもを吸いつくされようが、生きねば。でなければ、あの子らに申し開きができない」・・・・・・。

「人は、木みたいにね、すごく優しくて強い人がね、奇跡的にいたりするの。ごくたまにね。でも実際には、そういう人ほど他の人に寄り掛かられ、重荷を背負わされ、泣くことも歩みを止めることもできなくなる。あなたのお母さんも、そんな子だった」・・・・・・。絡み付いて栄養を奪いながら、芯にある木を締め付けて元の木を殺してしまう。死んだ実母。絞め殺しの木。しめ殺された木。絡み合い、枯らし合いながら生きる人々。哀れではあるが、根を下ろした場所で、定めに従って生きる。実母ミサエに思いを馳せ、雄介は生きていく。いたたまれないほど過酷で辛い、重い小説。


nakajima.jpgこの4月に角川春樹事務所から出た詩集。同じ北海道の桜木紫乃が「メロディーのある文学作品は、簡単に胸奥の壁を突破してしまう」「中島みゆきの詩を読むと『自分のため』という動機しか持ち合わせずに伸びてゆく一本の木が見える。囲いも縛りも剪定もなく、原野にそびえ枝を伸ばしてゆく一本の木だ」と書いている。生命力を感じ、人生を感じ、大地や空や海や風を感じる。北海道の風雪を越えて進むむき出しの力だ。おおらかな庶民の強さだ。

「冬は必ず春となる」「海よりも広いものがある。それは大空である。大空よりも広いものがある。それは人間の心である」・・・・・・。「魂から湧き出る歌詞は、人生の詩そのもの」――元気をもらう歌詞とメロディー。聴きながら読んだ。


jinkou.jpg「人口減少を止める方策はあるのか」が副題。急激な人口減少に直面している日本。「人口貯金を使い果たし、2008年、人口減少の局面に入った日本」「2005年、過去最低の出生率1.26となり、若干の上昇が見られたもの の再び低下に転じ低い水準のままの日本」「失われた第三次ベビーブーム世代」「人口減少はいったん動きだすと止まらない」「毎年、政令指定都市クラスの人口が消失していく」「人口減少は地方から始まるが大都市も早晩、急速に減少局面に入る」「若年世代から人口が減っていく」「人口ボーナスから人口オーナスヘ」「このままいけば2110年には約5,300万人に」・・・・・・。なんとか「1億人国家」を実現できないか、その切実な願いを小説として、政府内の人口戦略検討本部による「人口戦略法案」「国会論戦」を通じて生々しく描く。確かにここまでやらないと人口減少は止められない。また時間も切迫している。若々しい国であった日本が、年老いた日本となることを止めなくてはならない。

「晩婚化から非婚化へ、晩産化から少産化・非産化へ」「出産をめぐる3人目の壁と年齢の壁」「共働きの実態と、仕事と育児の両立支援策」「スウェーデンやドイツの出生率回復策」など、出生率低下の構造・要因分析や制度をめぐる議論が紹介される。そして出生率向上のための三本柱「子ども保険」「不妊治療・ライフプラン」「結婚支援」を提起する。特に子ども保険は、新しい保険制度の創設だけに、相当踏み込んでいるが、そこまでやらなければ人口減少は止まらないということだ。当然ながら「若者に焦点を当てた地方創生」「外国人労働者と移民政策という難問」にも論及する。

「人口戦略法案」の中身は、「組織と制度・予算」が車の両輪となる。目標として「2060年に1億人の人口を維持し、2100年に9,000万人」「2040年に人口置換水準の2.07を達成し、年間出生数100万人を中期目標」とする。「短期目標は出生率で、2025年に1.62030年に1.8」と高いハードルにする。ただし結婚や出産は個人の決定に基づくものであることが基本。国家が決めるものではない。国は支援体制であり、子ども世代に夢や希望を与える「未来への投資」であり、就労、結婚、妊娠、出産、育児、居住、学習等の環境整備を図るものだ。

ここには新しい保険制度に対する批判が出る。「6.8兆円の国民負担増」「子ども保険料は43000円、企業負担増2.4兆円」などだ。予算とともに「国が個人の妊娠や出産に介入するのは反対」との声も出る。

要は、人口減少を止めることの重要性・切迫性を国民全体がどう考えるか、ということになる。この問題の最大の問題はそこにある。本書では、衆議院内閣委員会での総理への質問という形で、ここが展開される。こういう良い質疑が行われればどんなにいいか、と思うが、やり遂げなくてはならない最重要テーマである事は間違いない。


funsou.jpg「『国境なき医師団』看護師が出会った人々」が副題。白川優子さん。「国境なき医師団」に小さい頃から憧れ、看護師となり、日本で勤務する。MSFに入りたいと、オーストラリアで看護と語学を学ぶ。英語、フランス語は必須だという。2010年、36歳で念願を叶えMS F に参加。手術室看護師として、イエメン、シリア、イラク、南スーダン、ネパール、パレスチナ(ガザ地区)、アフガニスタンなど紛争地や被災地を中心に活動する。昨年8月は、混乱のアフガニスタンへ行き活動する。人道援助の現場で巡り合った人、暴力が渦巻く場所で懸命に生きる市民の姿、彼らを支える技術者たちの戦いをレポートしている。

「常に戦争に翻弄されてきた南スーダンの人々。赤ちゃんはお母さんのおっぱいを吸う力さえなく、飲み水も底をつき、ナイル川の水を塩素消毒してしのぐ。ナイル川には、戦闘で増える一方の遺体が流されていた」「初めて赴任したスリランカ。空爆によって下半身麻痺となった元少年兵の葛藤」「パキスタンのペシャワールで点在するアフガン難民キャンプで母子保健・ 産科医療プロジェクトに参画。男性中心主義の根付いている社会では、女性たちの医療機関にかかる機会がほとんどなく、妊産婦と乳幼児の死亡が極めて高かった。安全なお産を提供したい。女の子の赤ちゃんは嫌われた」「パレスチナ自治区ガザ地区は194万人の監獄でもあった。だが公衆浴場(ハマム)は賑わい、そこで出会った女の子から『ガザの外ってどうなっているの』と聞かれた」「イエメン女性はアバヤとスカーフ。イスラム教徒の女性とおしゃれの世界」「シリア内戦。地雷と戦う市民たち、重傷を負って見つめ合う父と娘。2012年に車窓から見た美しいシリアは現在、人々の血と叫びと涙で埋めつくされている」「7年間続いたメルボルン滞在。多民族が融和して暮らしている多人種・多文化都市であった」・・・・・・。

あまりにも過酷で重要な看護師の仕事。イラクのモスル解放の日に、ジャーナリズムは戦争が終わったとして去っていった。しかし医療は戦後もずっと続く。「報道が戦争の事象に終わらず、そこに生きている人々の姿をもっと伝えて欲しい」との思いを語っている。また2015年のアフガニスタン。MSFの病院が空爆を受ける。「なぜ医療施設が攻撃されるのか」との思いを深くする。「病院は市民の心の支えでありたい」との願いを語る。また、MS Fの柱となっているのがロジスティシャンであり、想像を絶する凄まじい戦いをしてることを述べている。後方でのバックアップ、寄付で支援する善意の人々を紹介する。

最後に「なぜ世界から人道危機がなくならないのだろう。同じ人間同士ではないか。なぜ理解し合い助け合えないのだろう。医療援助、人道援助をあとどのくらい、どこまで頑張ったら人道危機は収まるのだろうか。どれだけの声をあげたら国際社会は耳を傾け、解決に向かってくれるのだろう」と言っている。


miyagi.jpg宮城谷昌光さんが、平岩外四、丹羽宇一郎・・・・・・秋山駿など11人と行った対談集。いずれもその世界で、「究めた人」との対談。宮城谷さんも凄いが、全ての人が凄い。「縦横無尽の人間力」からは「名言集」が浮かぶが全く違う。その道一筋、「歩み抜いた人」「究めた人」との対談は、深く重厚だ。

「人間の真形」と題した秋山駿との対談では、小林秀雄を語る。ランボオ、ベルグソン、本居宣長、伊藤仁斎、中原中也ら縦横に触れるが、「何か、ある、眼には見えないものを見る。精神の最高の塔というか生の最深部というか、そんなものを見る。むろん、よく解らない不可解の上に投げ出される。一瞬イメージで見たんだけど解らないものを一生追求する、それが、文学の理想だったんだけどね。・・・・・・小林を読むと、ああ、ほんとうによく解らないものを追っかけてるなと思う」「われわれは歩行の果てへと往くのか、元の場所へと帰るのか、解らない。さかのぼるんだ、小林は」「ええ、それはよく解ります。『本居宣長』のなかで、本義ではなく転義という言い方をしますが、結局そこなんでしょうね。本義のない転義はない」「小説は『書く』ものでなく『ある』ものなんです」との対話がある。

「歴史を楽しむ」との章では「平勢隆郎―春秋戦国について」「井波律子―孟嘗君と春秋戦国時代」「縄田一男―范雎への思い」「吉川晃司―三国志のおもしろさ」の4人の対談がある。この時代を粘り強くこつこつと探り続けている人生そのものに感嘆する。白川静博士の長女・津崎史さんとの「甲骨文字を辿リ、古代人と対話する」にも感動した。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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