subarasiijinntai.jpg「あなたの体をめぐる知的冒険」が副題。「脚は片方だけでも10キログラム以上、腕でも4〜5キログラムもあって重い」「頭を激しく動かしても文字が読める」「おならが出ても、気体だけで固体が出ない(すごい肛門)」「細菌が病気の原因となることを発見したコッホ、細菌を殺せる化学物質で梅毒の治療薬サルバルサンを発見したパウル・エールリヒ」「偶然がもたらした抗生物質ペニシリン」「ウィルスとの戦いとワクチン」「唾液は1日1~2リットル出る」「心臓の拍動の仕組み」「肺はどのように空気の出し入れをするか」「肝臓は人体の『物流基地』」「免疫は『自己』と『非自己』を見分ける」「DNAという暗号文」「B型肝炎もC型肝炎も治療できるようになった」「糖尿病は細い血管が蝕まれて恐ろしい」「痛み止めの効用」「全身麻酔とは(麻酔と鎮静は異なる)」「レントゲンとCTとMRI」「パルスオキシメーターを生んだ日本人・青柳卓雄」「血液の赤色と透明な輸血」・・・・・・。

知らないことばかり。考えたことがないものがいかに多いか。いかに人体は奇跡的なものか。そして人類がいかに戦い、病気を克服してきたか。まさに格闘の歴史が、誰にでもわかるように図入りで語られる。極めて面白い。確かに「すばらしい人体」だ。


natuno.jpg「夏の体温」「魅惑の極悪人ファイル」と、きわめて短い「花曇りの向こう」の3編。

「夏の体温」――。夏休み、小学3年生の高倉瑛介は、血小板数値の経過観察で1か月以上入院し、退屈な日々を送っている。そこに低身長の検査で同学年の田波壮太が入院してくる。壮太はいきなり「俺、田波壮太。三年。チビだけど、九歳」と陽気に挨拶。たった三日間だが、次々と遊びを見つけ、楽しい楽しい交流の時間を過ごす。壮太は退院。別れがなんとも可愛く辛く、二人の姿を思い浮かべてしまう。「お母さんは何もわかっていない。あれ以上言葉を発したら、泣きそうだったからだ」・・・・・・。紙飛行機を残し、そして手紙が来る。ひからびたバッタの死骸が入っていた。病を抱えながら健気に生きる二人の姿と少年のエネルギーが心の奥底に迫る。

 「魅惑の極悪人ファイル」――。学生作家の大原早智。人間の闇を書こうとして、「ストブラ」と呼ばれる倉橋ゆずるという大学生に取材に行く。「腹黒」と言われる倉橋は、極悪人どころかとてもいい奴。そのキャラクターに惹かれていく変化の様子が、なんともほほえましく面白い。 


AIhoutei.jpgAI裁判官が導入された未来の日本。ますます複雑化していく訴訟社会、最高裁判所の鳴り物入りで導入された機械の裁判官だ。誤解なく、偏見なく、正義を正確に執行する。裁判を省コスト化、高速化し、広く国民に法の恩恵を行き渡らせるという触れ込みで生まれた新たなる法の番人。正義を司るのはAIなのか人間なのか。人間は自ら発達させたテクノロジーに振り回され、支配されるのか。きわめて重要なテーマを、軽やかにコミカルにミステリー小説として描く。気鋭の作品。

主人公はAI裁判官を騙し、AIの穴をつき勝訴を手にするハッカー弁護士と称される機島雄弁。

米国や英国はコモン・ローを第一とする判例法主義の司法制度、日本は制定法主義。裁判官の根本には、人生で培った道徳があり、そこに法を重ねあわせて思考するが、AIは法と判例に学ぶ。AI裁判官の本質は、極めて強固な判例法主義となるゆえに、機島はその穴をつこうとし、裁判内部の情報を獲得するしたたかさを持つ。しかし、今回遭遇した事件は、はるかに複雑な展開を見せ、機島は追い込まれる。そこには、AI裁判官の設計時に埋め込まれた秘密ーー検察官が証拠や証人を自在に否認可能とするバックドア、マスターキーでAI裁判官を縛り上げるという策謀が行われていたというものだった。

近未来社会の問題を赤裸々に描いている。面白い。


sengoku.jpg戦国武将の評価が時代とともに大きく変化していることを論証し、妄説を打破し、その虚像と実像に迫る。戦国武将の評価は「大衆的歴史観」を考える上で最重要のテーマ。本書は、戦国武将の評価の歴史的変遷を考察する。数多の歴史書や小説を、ある意味では撫で斬りにするわけだから相当の力技だ。

扱っているのは明智光秀、斎藤道三、織田信長、豊臣秀吉、石田三成、真田信繁、徳川家康の7人。「織田信長は革命児」「豊臣秀吉は人たらし」「徳川家康は狸親父」「石田三成は君側の奸」「真田信繁は名軍師」といったイメージはどうなのか、ということだが、その人物像は時代ごとに大きく変化している。それは、「歴史は勝者の歴史であること」「その時代の大衆に受けるように講談・浄瑠璃・歌舞伎などで演じられたこと」「江戸時代の中心を成した儒教的倫理観」「明治以来の皇国史観」「日清戦争・日露戦争、アジア出兵などの影響」「戦後の合理主義や革新者待望意識」などで、くっきりと人物像が変遷する。豊臣秀吉は、「徳川史観による著しい秀吉批判」「幕末の攘夷論と秀吉絶賛」「明治・大正期の朝鮮出兵への評価」「支那事変を背景にした吉川英治・太閤記の秀吉礼賛」「秀吉の朝鮮出兵を愚挙とする戦後の小説」など、その評価は極端に変化する。現在の「大衆的歴史観」において司馬遼太郎の影響はきわめて大きいとする。

最後に「英雄・偉人の人物像は各々の時代の価値観に大きく左右される。歴史から教訓を導き出すのではなく、持論を正当化するために歴史を利用する、ということが往々にして行われる。日中戦争を正当化するために秀吉の朝鮮出兵を偉業と礼賛する、といった語りはその代表例である。問題意識が先行し、先入観に基づいて歴史を評価してしまうのである」と言い、時代の価値観が歴史観、歴史認識をいかに規定するかという問題を剔抉する。


nihonsi.jpg「定説」も「最新学説」も一から見直そう、と言っているが、日本の歴史がきわめて明確に見えてくる。時代の流れがよくわかる。

「この国の形は時代によって変わる――日本列島が一つの国といえるようになったのは、1590年、秀吉による奥州平定の完了時点」「古代――ヤマト王権の力の源泉は大陸・半島にあり。白村江の戦いが日本というアイデンティティーの誕生。天智天皇・天武天皇・持統天皇の三代で日本の原型。律令体制は現実からかけ離れた非現実なものだがタテマエの力でもあった」・・・・・・。

「平安時代――朝廷は全国を支配できていない。坂上田村麻呂は東北を平定していない。遣唐使の廃止は唐の混乱で外圧が弱まった。摂関政治の開始と菅原道真の左遷。貴族が地方を放置し東国に朝廷と別の体制をつくる平将門の乱。関東に先に進出した平氏。実はモロかった摂関政治。保元の乱と平治の乱で地方で力をつけてきた武士が政治の主導権を握る。平家政権は武士の政権だったのか」・・・・・・。

「鎌倉時代――関東武士はなぜ頼朝を担いだのか(頼朝の外交力)。朝廷に骨抜きにされないよう頼朝は戦略を組んだ(全く理解しなかった義経)。鎌倉幕府成立の1180年説。後鳥羽上皇は源実朝を懐柔しようとしたが暗殺されて討幕を考える(承久の乱へ)。鎌倉時代後期の天皇は名君ぞろいで徳へと進む。外交オンチが招いた蒙古襲来(攻める気のなかったフビライ)。得宗専制で自滅した鎌倉幕府。名字に『の』が入らなくなった理由」・・・・・・。

「室町時代――鎌倉幕府を倒したのは後醍醐天皇ではない。南北朝はなぜ50年余りも続いたのか。細川頼之がつくった足利義満1392年体制。応仁の乱は尊氏派と直義派の最終決戦だった」・・・・・・。

「戦国時代――エリート大名が戦国大名に進化できなかった理由。秀吉はなぜ家康を潰さなかったのか」・・・・・・。「江戸時代――江戸幕府の名君と暗君は誰か」・・・・・・。古代から近世まで時代の流れがよくわかる。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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