jiyuuto.jpg「自由とセキュリティの相剋」という命題は、「多元主義と一元主義」「多様性の重視か安全への渇望か」「人権か覇権か」という複雑かつ広範な問題であり、現在世界を覆っているポピュリズムの問題でもある。「ポピュリズムの定義は定まってないが、多元性、多様性を否定し、一元的・集権的な政治を求めるものであることは間違いない。真の人民を代表するのは自分たちだけである、それ以外は『人民の敵』などとして排除するところにポピュリズムの特徴がある」「これが出てくる背景には、経済のグローバル化によって、雇用の安定性が脅かされたり、外国人が増えてなんとなく不安であるとか、文化的な一体性が損なわれるといったセキュリティ低下の意識があるといえる」と言う。コロナ禍やロシアのウクライナ侵略、欧米の選挙における右派ポピュリズム政党の跋扈、世界における専制主義の台頭。「強い指導者を求めるというより、むしろ誰でもいいから、社会をまとめてもらいたい」という空気のなか、「自由と多様性」が脅かされる現在への警告を、政治思想の名著6作から提示する。ミル、ホッブス、ルソー、バーリン、シュミット、フーコーの6人だ。

「自由とセキュリティの相剋」は本質的問題だ。生命や生活の安全、セキュリティを考えれば、人々が力を合わせ、意志を統一させ、現存秩序を維持することが重要となる。自由を重視する政治理論は、「どう生きるべきかは人それぞれであり、どの生き方が正しいという確証がない以上、一つにまとまることはできないという考え方」であり、「絶対的に正しい秩序というものが保障されないとすれば、秩序への異議申し立ての余地は常に必要だという考え方」だ。「セキュリティ重視の政治理論からすれば、秩序対抗的な動きはセキュリティの低下につながる撹乱要因に過ぎないが、自由重視の政治理論からすれば、秩序を一元化し、それを固定化しようとすることこそが、秩序を牢獄に変え、人々の生活のセキュリティをかえって低下させかねない」と言うのだ。コロナ禍、戦争、経済の不安定、社会の不安と分断、フェイクの暴走など、セキュリティへの危機意識が高まれば、秩序の再構築と一元化への誘惑は高まるが、少数意見を封じ込めた自由軽視のいずれの専制も、歴史の中で脆弱さをさらけ出したと改めて思う。

人も思想も時代の中にある。自国の政治的危機に翻弄されたホッブスは、人間を自由のままにすれば、セキュリティは低下するということから「秩序志向」「国家(リヴァイアサン)」を示す。そして、ワイマール共和国の危機に身を置いたシュミットは、「政治とは戦争である」「政治は緊急事態、例外状態にこそ現れる」「政治的多元主義批判」「セキュリティを確保するためには個々人が自由を放棄して、集団として力を合わせる以外にはない」と発想する。シュミットの影響を受けた丸山眞男の「(日本の戦争主体の)無責任の体系」について、著者は「戦前の日本の失敗の本質はむしろ、価値の多元性を否定した点にあったと考える」と言っている。

ミルは「少数意見擁護論」「個人の自由の領域を幅広く認めようとするには、社会に多様性が必要。多様な意見が確保されることで、社会の知的発展が期待できる」とする。著者は「現在の自由論は、あまりにセキュリティー論の方に傾きすぎている」とし、「自由の条件として、平等や貧困の克服が重要であるとしても、それは充分条件ではない。自由論というのは、それ自体として論じられるべきだ」と言う。

ルソーは「一般意志」による統一を構想する。しかも「一般意志への服従は、共同体全体によって強制される。これは『自由への強制』に過ぎない」と言う。しかしその後、「フランス革命期に『人民の敵』と名指しされた人々が、次々にギロチンにかけられる」ことになる。偉大な人も思想も時代の中にあるということか。

20世紀に入り、バーリンは「ニつの自由概念」を示す。消極的自由と積極的自由の概念だ。「個人に許される範囲と社会によって統制される範囲との境界線に関わるのが消極的自由であり、そこでは個人の内面は問題にならない。他方で積極的自由は、まさにその個人の内面で起きていることを問題している」「消極的自由で特に強力なのは政府による統制」「バーリンは、多元主義の立場から、人々にとっての価値選択が一つにはならないこと、そして一つの理念によって社会をまとめようとすれば無理が生じる」ことを主張する。

フーコーは、「継続する戦争状態というものを国家間戦争の局面でなく、内戦の局面において、つまり国内の征服者と被征服者との関係において見ていく」「ホッブスの戦争状態とは、実際の力の激突としての戦争とは異なり、相手を攻撃するぞという『表象のゲーム』であるとする。血の匂いはしない」「眼目は主権批判」など、「権力のあり方」を論じている。これらの著作を通じ、著者の考えが随所に述べられる。短い新書だが中身は深大。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ