第4代将軍家綱の時代、品川を出た知多半島の廻船、五百石の颯天丸は遠州灘で大西風を受けて漂流、奇跡的にフィリピンのバタン島に漂着する。乗組員は15人。漂流中は、大嵐を受けて楫が折れ、帆柱の切断、荷を捨てる決断をする。荒れ狂う大海原に漂うなか浸水や水不足にも見舞われる。絶望的状況が続くが、奇跡的にフィリピンの北にあるバタン島にたどり着く。
船乗りたちは、ここがどこの島かわからない。島では言葉も通じず、島民の急襲も受ける。15人はそれぞれ別の島民の家の下男のように働かされる。まとめ役である頭の志郎兵衛、続いて楫取の巳左衛門が行方不明となり、命を落とす。主人公の水夫・和久郎に船を造って日本に帰ろうと言い続けた門平も事故が元で死ぬ。やっと手に入れた斧以外は何の道具もないなか和久郎を中心として、ついに第二の颯天丸を造り上げる。日本に向かい、長崎の五島にたどり着く。方角がわからないなかの決死の航行だ。
「頭たちは、無駄に死んだわけじゃない。若い者が先を切り拓けるよう、早めに道を譲ったんだ」「おれはこれまで、長い船暮らしで得た知恵と識こそが、間違いのないものだと頭から思い込んでいた。でもな・・・・・・俺たちの代の識であり、すでに過去のものなんだ。現在を動かし、大きな流れを作るのは、当代の識や知恵に長けたお前たち若い連中だ」「おれたちが拾ったのは、千に、いや、万にひとつの運だ。この上ない僥倖だ」「和久郎、誇れ! この天運は、おまえたち、若い者が引き寄せたんだ」・・・・・・。
史実に基づく壮絶な海洋冒険小説。諦めない執念、良き指揮官ありて同志的結合あり、若者が未来の扉を開ける。荒れ狂う海と未知の島、そして異国の民――当時の木造荷船を調べ上げた熱量と情けのこもった力作。