家康、江戸を建てる.jpg天正18年(1590年)、秀吉によって江戸に転封された家康の見たものは、低湿地の広がる江戸とそこに建つお粗末な江戸城だった。家康はそこで東京湾に注いでいた利根川を太平洋へと流す大工事に乗り出す。第一話はこの「流れを変える(利根川の東遷、荒川の西遷)」だ。これを命ぜられたのが伊奈忠次、それを継いだ伊奈忠治。第二話は「金貨を延べる(天正大判を駆遂し、貨幣を制する小判の貨幣鋳造、金座)」で後藤庄三郎。

第三話は「飲み水を引く(七井の池―井の頭から関口、水道橋へと立体交差する神田上水工事)」の内田六次郎、大久保主水藤五郎、春日与右衛門。第四話は「石垣を積む(江戸城の石垣)」の"見えすき吾平"と"見えすき喜三太"。そして大阪夏の陣。第五話は「天守を起こす(白色の江戸城天守閣への家康、秀忠の思考)(漆喰)」は家康が何を考えたかに迫っている。

「国土」「土木工学」に携わってきた者として、また東京に住んでいる者として、きわめて面白かった。


首都直下地震.jpg大正関東地震(震災の名は関東大震災、1923年、M7.9)、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災、M7.3)、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)・・・・・・。この20年、今回の熊本地震までに、新潟中越地震等を含め、ほぼ5年に1回は大きな地震に日本は襲われている。

首都圏の地震は「プレート境界で発生するM8クラスの巨大地震と、必ずしもプレート境界ではないが、プレートの沈み込みに伴うM7クラスの大地震の二種類」があり、M8クラスの地震発生間隔はきわめて長い(約390年)。

「東京都を中心とする150k㎡の範囲に、M7程度の地震が100年間で5回程度の頻度で発生している」――明治以降でいえば、明治東京地震(1894年、M7.0)、茨城県南部の霞ヶ浦付近(1895年、M7.2)、茨城県南部の龍ヶ崎付近(1921年、M7.0)、浦賀水道付近(1922年、M6.8)、千葉県東方沖(1987年、M6.7)だ。M8クラスの地震は1923年大正関東地震とその余震(M7以上が複数回発生)、1703年の元禄関東地震(M8.2)などがあるが、このプレート境界地震は発生間隔が長いのでこれを除いて、「30年以内に発生する確率が約70%」という数字が算出されている。1995年の兵庫県南部地震のような危険に備えるということだ。

「首都直下地震とは何か」「予想される被害」「想定から外された東京湾北部地震」「プレート境界の関東地震」「プレート内部での地震(スラブ内地震)(都心南部直下地震)」「30年以内、70%の意味」などが詳述され、「首都圏を守るために」として、耐震化と出火対策、帰宅困難者への対策、自主防災組織の重要性、新しいコミュニティの創出、防災教育などが提唱されている。


ゼロの激震.jpgすさまじい、壮絶。安生正「ゼロシリーズ(生存者ゼロ、ゼロの迎撃)」の最新作。最悪の危機は"観たくないから考えない"と甘い想定で思考停止に陥るものだが、あえて関東消滅の危機に迫る。

栃木県・金精峠で土砂崩れが発生し、足尾町で突然3000人もの町中の住民が謎の死を遂げ、続いて群馬県富岡市が火炎弾等で火の海となる。原因を探ると、マグマの上昇、南下の諸現象であることが判明、物理・土木の技術者・木龍に阻止の任務が下るが失敗する。怒りとも思える自然の力にはかなわない。文明の宿命、人類の無力・・・・・・。そして更にマグマは埼玉県秩父を大噴火による火砕流で飲み込み、新宿区や中野区を壊滅させ、東京全域へ。

東京壊滅をもたらしたこのカルデラ破局噴火。調査の結果、それを誘発したのは、今回新たに地下40kmに建設された東京湾浦安沖のマグマ熱を使った夢の東京湾第一発電所。その立坑に、対岸にある京葉第三発電所から発生する二酸化炭素を地下貯留させるよう結んだことにあるようだ。

技術者の誇りと死をもいとわぬ使命感。政治家の全うな責任と胆の決め方。「自然の怒りを前にして、お前にできることなどなにもない。災害から人々を救うのは技術者の仕事だ。お前ではない。俺だ」「東日本大震災で・・・・・・被爆の危険をものともせず瓦礫の撤去を行った者たちがいた。・・・・・・事故を起こした罪の意識に苛まれながらも、困難に立ち向かった職員たちの献身は、痛みの記憶以外の何物でもない」――。学び、考え、打ちのめされ、成長する。「技術者の誇りはどんな困難も乗り越える」――。現場の力、技術者の誇りと心意気が描かれる。それに"命"を見る政治家の胆が加わってはじめて日本の底力といえる。


羊と鋼の森.jpg17歳の高校生であった外村は、ピアノの調律に出会い、衝撃を受け、調律師を志す。自らの素質に悩みながらも先輩の暖かさに囲まれ、素直に真正面から取り組み成長していく。音にかかわる深い世界を、素朴に、繊細に、心に沁み入るように描いている。静謐さ、しっとりした湿度、透明感が伝わってきていい。

羊のハンマーが鋼の弦を叩く。それが音となり、音楽となり、静謐で安らぎのある森の世界へと導く。「明るく静かに澄んで懐しい。甘えているようで、きびしく深いものを湛えている。夢のように美しいが現実のようなたしかな音(原民喜の文体の表現を使っている)」――外村が調律で目指そうとしたものだ。「家の中のどこにいてもなんだか安まらなくて・・・・・・すぐ裏に続いていた森をあてもなく歩き、濃い緑の匂いを嗅ぎ、木々の葉の擦れる音を聞くうちに、ようやく気持ちが静まった。・・・・・・どこにいても落ち着かない違和感が、土や草を踏みしめる感触と、木の高いところから降ってくる鳥や遠くの獣の声を聞くうちに消えていった」「ギリシャ時代、学問といえば、天文学と音楽。音楽は根源なんだよ。・・・・・・無数の星々の間からいくつかを抽出して星座とする。調律も似ている。世界に溶けている美しいものを掬い取る。その美しさをできるだけ損なわないようそっと取り出して、よく見えるようにする」「外村くんみたいな人が、根気よく、一歩一歩、羊と鋼の森を歩き続けられる人なのかもしれない」・・・・・・。沁み入るようだ。


シフト.jpg「2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来」と副題にあるが、驚愕というより現状分析を踏まえて未来を淡々と論じている。

マシュー・バロウズ氏は、アメリカのNICの元分析・報告部部長で、直近の2号である「グローバル・トレンド」(2025/2030)で主筆を担当。この「グローバル・トレンド」は4年に1度、新大統領に対し、アメリカが未来に向けて準備すべきことを報告しているものだ。

今、世界はG20の時代。新しい国家が台頭し、パワーの性質の変化やパワーの拡散が起きている。その拡散を起こしている最大の主体は、国家ではなくて個人。新たな中間層に加わり、新しいテクノロジーによってエンパワメントされた無数の個人がボトムアップ型のダイナミクスを生み出し、パワーの拡散を引き起こしている。新しい多様なアクターは、新たな国、NGO、多国籍企業、テクノロジーを身につけたスーパエンパワード・パーソンだ。

異常気象、気候変動、人口爆発、食料や水の不足、民族的・宗教的対立、人口移動、低成長、お粗末な統治、テクノロジー。そして覇権国の存在しない多極化する世界、中国やインドの動向、中東の不安定要因・・・・・・。難題があふれている。

序章「分裂する21世紀の世界」に始まり、「個人へのパワーシフト」「台頭する新興国と多極化する世界」「人類は神を越えるのか」「人口爆発と気候変動」「もし中国の成長が止まったら」「テクノロジーの進歩が人類の制御を越える」「第3次世界大戦を誘発するいくつかの不安要因」「さまようアメリカ」などに論及している。第3部は「核の未来」「生物兵器テロ」などが小説として書かれている。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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