活動ニュースNEWS

東日本大震災  "観光力"で復興加速

2015年5月 3日

対談 南三陸ホテル海洋 女将/阿部憲子さん
     国土交通相/太田昭宏氏


被災地は千年に一度の学びの場  阿部
「観光立国」の総仕上げを東北で   太田


東日本大震災から4年余り、被災地に響く復興の槌音が力強さを増している。人よし、味よし、お湯よし......と魅力満載の"みちのく東北"に本来の姿が戻ってくる日は遠くない。カギを握るのは、人と人を結ぶ観光の大いなる飛躍だ。そこで、宮城県南三陸町の南三陸ホテル観洋女将、阿部憲子さんと太田昭宏国土交通相(公明党)に被災地観光の明日を語り合ってもらった。題して「"観光力"で復興加速」。折しも時候は春爛漫にして、大型連休のど真ん中。薫風に乗って、さあ、あなたも東北路へ!!=東日本大震災取材班


対談 太田0503.jpg対談 太田0503.jpg
3・11と観光 カギは交流人口増加に


太田国交相 東日本大震災から4年余り、女将が被災地の復興に懸命に尽力してこられたことは、よく存じています。まずは、そのご奮闘に敬意を表する次第です。


阿部女将  ありがとうございます。何しろ南三陸町は町全体の6割、市街地の8割が被災しました。私どものホテルも孤立状態に陥りましたが、それでも被災された多くの方々を懸命にお世話させていただいたことで、「ああ、旅館業、観光業にはこういう役目もあるんだな」とかえって教えられました。この間、ずっと思ってきたことは、にぎわい復活のカギは交流人口増にあるということです。その意味でも、観光の役割は非常に大きいと思っています。


太田  復興加速に向けて交流人口増は最重要テーマの一つです。風評もあって東北観光は依然厳しい状況にありますが、今年は「東北に来る人が増え始めたな」と被災地の人たちが実感できる年にしたいと強く決意しています。


女将  震災発生以来、私は「千年に一度の災害は千年に一度の学びの場」ということを言い続けています。そんな思いから、ホテルのスタッフが語り部となって被災地域を巡る「語り部バス」を運行してきました。参加者は、骨組みだけとなった防災対策庁舎などを見て"あの日"に改めて思いを馳せつつ、命の尊さや寄り添う心の大切さを身をもって学んでくださっています。「家族、友人にも見せたい」と2回、3回と足を運ばれるリピーター客も少なくありません。


太田  私は、観光地の魅力アップのためには<見るもの・食べもの・買いもの>の三要素に磨きをかけることが大事だと言っています。このうち、<見るもの>は単に景色がきれいというだけでなく、文化・伝統・歴史に触れて「学ぶ」ということも含まれます。「千年に一度の学びの場」で一人でも多くの人に「学び」を体験してほしいと願ってやみません。
 実際、「語り部バス」を体験した人は誰しも"被災地の今"に何かを感じ、自身の意識が変わったはずです。他方、女将はじめ観光業に携わる方たちは、「おもてなし」を幅広く提供することで、人々に元気を届けておられる。数字に表れる経済効果以上の力が観光にはあるということです。


対談 南三陸 0503.jpg
女将  被災地でボランティア活動を続けておられる男性から聞いた話ですが、何度目かのボランティアの際、中学生になる一人娘と一緒に参加したそうです。すると、そのお嬢さんがどう変わったか。「今まではわがままばかり言ってきたけれど、これからは人に優しく生きたい」と語ったというのです。


太田  総じて観光、あるいは旅というものには、人間の精神を洗い、心を豊かにする作用がある。結局、人は人に触れて元気になり、優しくなるということなのでしょう。


女将  同感です。やはり元気なところ、ワクワクするところにしか人は集まらない。その一番の原動力が観光だと思うのです。


太田  ええ、観光こそは地方創生の源であり、風評打破、風化阻止の決定打です。
 それにしても女将の取り組みは、<見るもの>では「語り部バス」、<食べもの>では三陸の豊かな海の幸を盛った「キラキラ丼」、<買いもの>では町内に点々と広がる被災した商店をスタンプラリーで巡る「南三陸てん店まっぷ」など、聞いているだけでワクワクします。


女将  国のインターンシップ制度を利用して首都圏の大学生に観光業の就労体験もしていただいています。学生さんたちは被災地での体験を大学に戻って話したり、学園祭で三陸の名産品を販売したりしてくださっています。就労体験後に海外留学した学生さんが留学先で3・11を語り、現地の人から多くの応援メッセージを頂戴したりもしました。


太田  いい話ですね。ただ、東北の人は慎ましやかで、遠慮がちですから、そうした話がなかなか全国に伝わらない。この点は私どもの反省すべき点でもあるわけですが、今年はその分、観光庁が拡声器となって全国に発信します(笑い)。各地域の取り組みを点から線、線から面へと広げ、観光振興の「うねり」を東北全域に起こします。


女将  東北人は遠慮深いものですから、よろしくお願いします(笑い)。

南三陸.jpg

交通インフラ 


女将  震災前、私どものホテルでは、利用者の6~7割が東北のお客様でした。しかし、震災後は東北以外、あるいは海外からのお客様が占める比重が増えました。その意味で、太田国交相が被災地の交通手段の復旧・整備を急ピッチで進めていただいていることを大変うれしく思っています。


太田  被災地へのアクセス交通の早期整備なくして交流人口増はありません。
 道路については、復興の象徴である常磐自動車道が3月に全線開通しました。三陸自動車道の登米東和―志津川間も今年度中に開通し、仙台市と南三陸町が初めて高速道路で結ばれます。三陸自動車道は被災地復興の動脈と位置付け、4車線化も早急に進めています。
 鉄道もNHKドラマ「あまちゃん」でお馴染みの三陸鉄道・南北リアス線が昨年春に全線再開したのに続き、JR山田線の再開も見えてきました。仙石線も今月再開予定です。また、JR常磐線も順次、開通をめざしてまいります。


女将  交通インフラの着実な整備で、南三陸を「第2の故郷」と言ってくださるボランティアや観光客が増えています。地元住民も「遠くに親戚がたくさんできたみたい」と喜んでいます。ハードの整備によって、こうしたソフト面で"いい話"が増え、地域のイメージアップにつながっているように感じています。


外国人観光客 風評・風化阻止の決定打


女将  外国人観光客の増加も目覚ましいですね。


太田  この2年間で500万人増え、昨年は1341万人を記録しました。過去最高です。東京オリンピック・パラリンピックがある2020年に向けて掲げている「外国人観光客2000万人」の目標が視野に入ってきました。


女将  ただ、東北の地まではなかなか......。


太田  承知しています。実は先日、4年ぶりに開かれた日中韓3国の観光担当相会合をきっかけに、韓国旅行業協会が東北地方に約380人からなる訪問団を派遣しました。こうした機会を風評払拭や東北の魅力発信につなげていきたいと考えています。


女将  震災後、ホテルがまだ完全に復旧していないころでしたが、私どものホテルの和室に外国人観光客が泊まりました。畳の部屋も露天風呂も初体験。でも、それが大変に印象に残ったようで、「いいところですね」としみじみと言ってくださいました。被災地にとって、それは希望の言葉で、救われた思いがしました。とともに、国際化を意識し、より多くの外国人を呼び込む仕組みづくりの必要性を痛感したものでした。


太田  被災3県をはじめ東北は、外国人に知られていないだけに伸びしろも大きい。「観光立国の総仕上げは東北で」との思いで頑張っていきましょう。


女将  震災前にも負けない魅力的な東北を"観光力"でつくっていく決意です。


<あべ・のりこ 宮城県気仙沼市生まれ。25歳で南三陸ホテル観洋の女将に。震災後、避難所としてホテルを被災者に開放したり、被災児童らのための「寺子屋」プロジェクトを企画するなど 復旧・復興に尽力。>

facebook

Twitter

Youtube

トップへ戻る