「ナッジを使ってよりよい意思決定を実現」が副題。高校生向けに講義するスタイルで、行動経済学をわかりやすく紹介する。伝統的な経済学は、人々は合理的に行動するはずだという前提で、経済のメカニズムを説明する。行動経済学は必ずしも合理的とはいえない行動をするのが人間だと考える。しかしその行動にも何らかの傾向、規則性が見出されることを解明し、その上で経済の動向を解明する。本書は「感染症で学ぶ行動経済学――『社会規範』を考える」「落語で学ぶ行動経済学――サンクコストを考える」「ラグビー日本代表で学ぶ日本経済――『代替』と『補完』を考える」「風しん抗体検査で学ぶ行動経済学――ナッジを考える」の4章で、目の前にある具体的事象についてわかりやすく解説する。
「感染症対策」は厳しくすれば感染の拡大は抑えられるが、経済が悪化して経済的被害が出るという「トレードオフ」の関係がある。感染症でも、環境問題でも、「自由」にすると「負の外部性」がもたらされる。「見えざる手」がうまく機能しない場合が経済学の出番で、この「外部性」の解決を指摘したのがアルフレッド・マーシャル。「トレードオフ」にある感染症対策で、「日本では規制や罰則を使わない感染症対策をとり、市民への情報提供によって行動変容を促す」とした。どういうメッセージを発するか、まさに行動経済学の出番だったと言う。「マスクはなぜ店頭から消えたのか?」「トイレットペーパーはなぜ店頭から消えたのか?」「トイレットペーパー買い占めと銀行の『取り付け』」が、「ゲーム理論」「囚人のジレンマ」「ケインズの『美人投票』と株価」などで語られる。「重要なことは正しい情報提供をすれば、望ましくない社会規範を解消することができる」と言う。
「さほど儲からない事業の撤退をどうする?」――。「ここまで投資したから、ここまで待ったから。そうした問題は「コンコルド(効果)」「グリーンピア」「つまらない映画とチケット代」「デパートのトイレ待ち」など溢れている。「サンクコスト(埋没費用)」問題だ。それまでかけた額は変わらないから無視した方が良い。「人間には『現状維持バイアス』があることを前提に考えると、どうすればいいか悩んでいるのであれば、別の階のトイレを探しに行った方がいい」「現状維持か変化か――現状維持には真の価値にプラスして現状維持バイアスが加わっている。『変化』を選んだ人の方が幸せという研究結果がある」・・・・・・。
「ラグビー日本代表に外国出身の選手が増えで強くなった」――。外国人労働者、AI やChatGPTなど新しい技術革新の推進が語られる。
人々の意思決定には「現状維持バイアス」「自分だけは助かるという楽観バイアス」「同じ金額だと、利得よりも損失に大きく反応する損失回避バイアス」「自分の意見や結論を肯定するような情報を受け入れてしまう確証バイアス」「現在の好みが将来も続くと予想する投影バイアス」「参照点(アンカー)の情報に影響されて、物事を推測してしまうアンカリング」など様々なバイアスあり、誤った行動の原因となっている。ゆえにルールや仕組み、情報告知、広報の仕方などに、ちょっとした工夫(ナッジ)を施し、バイアスを修正してより良い行動へと導けないか。大竹さんが直接関わった「風しん抗体検査の受検率」「ワクチン接種率」などが紹介され、極めて面白い。納得する。あらゆる局面で、行動経済学の知見がさらに取り入れられることが大切だと思う。特に「問題は現場で起きている」からだ。