緊張高まる北東アジアの安全保障、自然災害の頻発するなか海の安全の確保、領海・ EEZを含めた総水域面積世界第6位の広大な海洋権益を守るなど、海上保安庁の果たしている役割は極めて大きい。しかし、「海猿」「DCU」などで、少しは知られるようになったが、最前線で戦っている海の警察・海上保安庁の実態はそれほど知られていない。あらぬ誤解もある。「海上保安庁にまつわる様々な誤解を解いた上で、組織運営の実態を知ってもらい、地に足のついた国家安全保障の議論をしてもらいたい」と、2年前までトップを務めていた元海上保安庁長官の奥島高弘さんが、果たす役割と存在意義を率直に、かつ生々しく語っている。
「国民みんなに知って欲しい海保の実態」――領海警備、海難救助、海洋環境の保全など、海保のステータスは上がっている。そのなかで、「海保の非軍事性を規定している庁法25条」は特に重要。海保が非軍事組織であり、軍事活動を行わない組織であり、法執行機関であるメリットは極めて大きい。
「海保を軍事機関にするべきか」――。軍隊同士の衝突では、直ちに戦争になる。軍事活動を行わない法執行機関であるがゆえに、「紛争回避に資する特性(緩衝機能)」がある。「領海警備を非軍事機関が担っているのは日本だけ」と言う誤解があるが、海上における法執行を軍隊ではない法執行機関が行うことは今や世界の趨勢となっている。東南アジアでは、海上保安庁モデルのコーストガードが多い。しかも第6軍と言われるアメリカ、軍事組織に属している中国のコーストガードも通常行っているものは非軍事のもの。「安全保障上重要なのは、コーストガードと軍隊の連携」であり、コーストガードを軍にすれば、重要な「緩衝機能」が失われる。「今や海上法執行機関としてのコストガードの存在は、紛争解決の手段として『軍事』『外交』に次ぐ第3のカードになると期待されている」と言う。
その「海保と自衛隊の連携・協力」――。「有事の際に海上保安庁は、防衛大臣の指揮下で武力を行使する」とか、「海保と海自で船舶燃料が異なるのは致命傷」「護衛艦を巡視船に転用すれば海保の戦力強化になる」「弾薬を共用できないのは致命傷」などは全くの誤解。私の国交大臣時代もそうした誤解がよくあった。丁寧に、具体的に、本書では解説している。
「海上保安分野で世界をリードする海保」――。日本の海上保安庁が多国間のコーストガードの取り組みをいかに主導してきたか、国際会議を開催するなどリードしてきたか、世界トップクラスのコーストカードとして信頼に足る「実力」が認められているかが説明される。納得する。
「海保は"絶対"に負けられない」――。尖閣諸島で「ほぼ毎日、接続水域内にいる海警船」の状況と、それに対し使命感を持って戦っている海保の実力、士気の高さが示される。
そして法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現を主導的に推し進める日本の中で、非軍事の法執行機関である海上保安庁の重要な役割が現場を踏まえて述べられている。元長官の思いが伝わってくる。必読の書だ。