江戸中期、徳島蜂須賀藩25万7000石は特産の藍を持ちながら30万両もの巨額の借財を抱えていた。しかも藍の流通は大阪商人に握られ、藍玉の生産農家は苦しい生活を強いられて藍師株を手放す藍作人も出ていた。
徳島藩蜂須賀家の物頭・柏木忠兵衛は新藩主候補である秋田藩主の弟・佐竹岩五郎との面会のため、江戸に向かった。岩五郎は第10代藩主・蜂須賀重喜となるが、「政には興味なし」と言い放ち、儒学や囲碁、茶道、戯画などを専らとした。家老たちの専横が続くなか、柏木忠兵衛、樋口内蔵助、林藤九郎、寺沢式部ら中堅家臣団は藩主による藩政改革を目指していた。そして、ついに重喜は立ち上がるが、その改革案はあまりにも斬新なものだった。そして旧態依然の家老たちを次々に追い落としていく。
重喜の急進的改革と忠兵衛、内蔵助らの漸進的改革、抵抗する家老たち、藍をめぐる大阪商人の策謀・・・・・・実に激しい智謀渦巻く戦いは極めて面白く、現代にも通ずるものがある。重喜の苛烈な藩政改革、抜きんでた知識と弁舌、厳しい倹約令と公共投資、牢固とした岩盤のごとき身分制度の破壊への意思は凄まじい。戸惑いながらも支えようとする忠兵衛ら中堅4人の結束と友情も現実感がある。
「秘色に染めた品をともと共有すれば互いの願いが叶う」――阿波の特別な言い伝えだと言う。「私は藩政改革をやる。私は誓った。次はお前だ。何があっても私を裏切るな。改革は茨の道だ。親子兄弟で憎み合い、時に殺し合う。だが、お前だけは俺の味方でいろ。どんなことがあってもだ。仲間や旧友を敵に回すことがあっても、決して私を裏切るな」・・・・・・。
「新法も同じです。速い変革は、蠅にとっての速い動きと同じです。蠅が刀に見立てた箸をよけたように、家臣たちも抗い、何とか逃れようとします・・・・・・一気呵成にゆっくりとやるのです。それが藩政改革の成功の秘訣です」・・・・・・。「新法は納豆を食するが如し。拙速よりも巧遅が尊ばれることがあるとはな」・・・・・・。
「忠兵衛、お主は、改革の肝は何だと思う。・・・・・・改革で大切なのは、人の心よ。どんな正しい法度であっても、人の心がついて来なければ意味がない。・・・・・・樋口や忠兵衛たちも、そんなことにさえ思い至らなかった。それは、家臣たちの心が旧態のままだったからだ」・・・・・・。
「内蔵助や式部は、徳島藩に忠義を尽くし、藤九郎は蜂須賀重喜に忠義を尽くす。・・・・・・忠兵衛はひとり取り残される。頭を抱えた。俺は、何に殉じるべきなのか。重喜を裏切らないと秘色に誓った。しかし、その結果、徳島藩がふたつに割れ、改易されてもいいのか」・・・・・・。
藩政改革に挑んだ藩主と若き中堅武士たちの戦いを鮮やかに描く熱量こもった力作。