最後まで一気に持っていかれる軽妙な感涙・感動の傑作。謎の根源には戦争直後の親のない悲惨な"浮浪児"がある。私の子供時代、全国のどこにでもあったものだ。
横浜で探偵業を営む遠刈田蘭平の元に、九州各都市に展開する「梅田丸百貨店」の創業者梅田壮吾の孫・梅田豊大から変わった依頼が舞い込む。時価35億円ともいわれる25カラット以上のルビー「一万年愛す」という宝石を探してほしい。米寿を迎える壮吾が、夜な夜な宝石を探していると言うのだ。遠刈田は長崎の九十九島の一つで行われる壮吾の米寿の祝いに訪れることになる。そこには豊大の父・一雄、母・葉子、妹・乃々華の梅田一族、元警部の坂巻丈一郎がいた。坂巻は45年前に起きた「多摩ニュータウン主婦失踪事件」に梅田壮吾が関わっていると捜査してきており、それ以来のつながりがあった。その他、この絶海の孤島で、壮吾の身の回りを手伝う看護師・宗方遼、家政婦の清子、船などの管理をしている三上譲治がいた。
ところが和気あいあいと米寿の祝いをした翌朝、梅田壮吾はこの野良島から忽然と姿を消す。しかも台風が襲来し、とても外に出れるような状態ではなく、ましてや島を出るなどとは、とても思われない状況であった。
家を探すと、DVDがテーブルに置かれたままで、「人間の証明」「砂の器」「飢餓海峡」の60年代から70年代にかけて大ヒットした映画が残されていた。いずれも私も見た印象的な作品だ。何を暗示しているのか、皆は推理する。そして「私の遺言書は、昨晩の私が持っている」と書かれた便箋が発見され、さらに「一万年愛すは、私の過去に置いてある。」との謎の便箋も見つかる。
「梅田翁はどこに行ったのか」「自らの命を断ったのではないか」「遺言書の意味は何か」「45年前の事件との関連は」・・・・・・。
そして、皆の考えは、壮吾が所有する野良島の隣のより小さな雪島にいるのではないかと結論。無謀にも台風のなか渡る。そこで驚くべき真相に出会うのだが・・・・・・。
私自身、戦後そのものを生きてきただけに、原風景に出会い、心が揺さぶられる。3つの映画も、セリフも、俳優の演技も思い起こす。梅田翁のような人も確かにいた。この家族の心もまた皆んないい。