帯に「『白鳥とコウモリ』の世界再び」「まるで幽霊を追いかけているようだ」とある。身代わりというか、まさに「架空犯」。息もつかせず、次々と予想を覆す展開に、身体ごと持っていかれるような圧倒的な東野圭吾の世界の傑作だ。
燃え落ちた焼け跡から2つの遺体が見つかる。都議会議員・藤堂康幸と妻で元女優の江利子。火災による死ではなく絞殺だった。警視庁本部の巡査部長・五代努は所轄の山尾というベテラン警部補と組むことになり捜査に入る。殺害された藤堂夫妻には一人娘・香織がいて既に結婚しており、夫の榎並健人は医療法人を運営する榎並グループの御曹司。香織は妊娠中だった。捜査に入るが、藤堂夫妻には殺されるほどの恨みを買っていることも見当たらなかった。そんな時、藤堂康幸事務所に犯行声明の手紙が届き、「私は犯人である。動機は単純明快だ。世間を欺き、人として許されない行為を繰り返してきた二人に制裁を加えた。制裁は天誅といいかえてもいい。夫妻の非人道的行為を証明するものがある。3億円で買い取ってもらいたい」と。
捜査のなか、江利子は幼い時に航空機事故で両親を失い叔父夫妻に育てられたこと、高校は都立昭島高校で、その時の教師が藤堂だったこと、同級生で最優秀の学生・永間和彦が東大受験に失敗し、自殺していたことなどがわかっていく。さらに捜査が進むなか、コンビを組む山尾の行動や言動に違和感を感じていくのだった。
そして、山尾が逮捕されるという驚愕の事態に至るのだが・・・・・・。
誰が悪いのでもない。複雑な家族、愛の渇望、秘めた本心、その中で生まれる嫉妬心、親が子に注ぐ無限の愛、そして保身・・・・・・。その軋みのなかで起きる悲しい事件。思いもよらぬ事件の真相へ・・・・・・。