富勘長屋に住む北一、相棒の長命湯の釜焚き・喜多次のコンビが事件を解決するシリーズ第3弾。人情が通い、助け合う長屋や湯屋、文庫屋、文庫作業場、棒手振、そして岡っ引きの親分、おかみさん・・・・・・。江戸の町が浮かび出てくる宮部みゆきの世界が心地良い。
第1話「気の毒ばたらき」――。年明け、おかっ引きの千吉親分が、河豚に中毒って頓死してしまう。岡っ引きの跡目はおらず、北一はその真似事をしている。そんな時、万作・おたまが継いだ千吉親分の文庫屋から火が出て焼失。下手人は、台所女中のお染だというが、北一は信じられない。疑いを晴らそうと北一は奔走する。
一方、火事で焼け出された人々が集まる仮住まいでも、"切り餅" 4つ(百両)がなくなるという事件が起きる。
目は見えないが、おかみさんはすごい。世の中、人の心の動きが見えている。「お染はどこにいるんだろうね。なぜ放火なんかしたんだろう。それ以前に、なぜお店の金に手をつけようとして、見咎められるような羽目になったんだろうか」「女が善悪を忘れて、何かをしでかすのは、自分のためじゃない。想う男か、子どもの命がかかっているときさ」・・・・・・。
北一、喜多次は動く。「気の毒ばたらき。気の毒だねえ、大変だったねぇと同情しながら、火事で焼け出された人たちの間に立ち交じり、その人たちが命からがら持ち出してきた家財道具のなかの金品を漁って盗み出す。卑怯な手口だ」・・・・・・。
第二話「化け物屋敷」――。前の話の続き。江戸の正月の風景や日常が浮かんでくる。深川佐賀町の村田屋という貸本屋。28年前、その店主・治兵衛さんのおかみさん(おとよ)が、行方知れずになり、半月も経ってから、千駄ヶ谷の森の薮の中で亡き骸になって見つかる事件があった。下手人が捕まるどころか、なぜそうなったかの事情もわからないままになっていた。北一は、町奉行所の文書係・おでこ(三太郎)の力を借り、同じような事件があったのではないかと調べ始める。そして「化け物屋敷」の<大旦那様>の存在とお社、後始末に働く八助の気狂いに行き着いていく。
江戸の街の人情、生活、風習、災害と恐怖が、キャラが立つ人物を通じて、生き生きと立体的に情緒深く描かれる。