16世紀の蝦夷地。アイヌと和人とが激しく激突した今でいう函館、松前などの北海道南部先端。シリウチコタン(アイヌ集落として最南端)、大館(後の松前)、勝山館、エサウシイなど、和人とアイヌが混在する嶋南が舞台。アイヌの壮年シラウキは、この地の支配を目論む大館の蠣崎季廣の娘・稲を、とあることから攫ってしまうことになり、紛争の引き金を引く。
この地は、これまでも何度も和睦と称して相手を皆殺しにするという悲惨な歴史が繰り返され、アイヌと和人との間には不信と憎しみが充満していた。そうした絶望的な過去を抱えるシラウキ、領袖の娘として純粋な責任を背負う稲、蠣崎家家臣で稲の許婚の下国師季、泊村を支配する無頼の女傑・小山悪太夫、女真族で蠣崎二郎基廣(シラウキの友であった)の「有徳党」の一員の男・アルグンの5人は、紆余曲折を経たうえ結束し、和睦を成立させるために仲裁を求めて海を渡り、出羽国の檜山屋形(安東家当主・安東舜季)へと旅立つ。命をかけた難行苦行。それぞれが過去を背負い向き合いながら、ひたすら自分の内に秘すものを秘しながら、「アイヌと和人のとこしえの和睦」「円かなる大地」を目指して突き進む。
暴れる羆、過酷な自然、異文化の攻防――最初から、最後まで、息苦しいほどの戦いのなか、一筋の光芒が鮮やかに描かれ、一息つく思いがする。2019年の「アイヌ新法」「ウポポイの民族共生象徴空間」を想起する。