gakuryoku.jpg「認知科学による回復への道筋」が副題。「分数がわからない」「小学生の算数文章題につまずく中学生」――「読解力がない」と言われるが、学力不振の子どもたちはそもそも「数」という概念を根本的に誤って理解している。乳幼児は驚異的な「学ぶ力」で言語を習得している。それは人間の子どもの推論の力、知識を学習する力に所以しているからだ。子どもたちが、本来的に持っている「学ぶ力」を発揮するために、躓きの原因と回復への道筋を認知科学の視点から解き明かす。

重要なのは「人間の記号接地」。「人間が乳幼児期にすることを一言で表せば、世界を自分の身体で探索すること」、まさに記号接地。「乳幼児がしたいのは『結果がうまく出る方法を見つけること』ではなく、『なぜこうするとうまくいき、なぜこうするとうまくいかないか』、つまりものごとの仕組みを発見することなのである」と言う。「人間とは、問題解決に成功することだけを目的として探求する生き物ではないのだ。モノに身体で触れて、つかみ、動かし、そのモノを理解しようとする。同時に世界の仕組みを理解しようとする言語は、まさにその延長線上にある。そして抽象を極めた数学や科学の世界、実世界を象徴的に表現する芸術の世界は、さらにその延長線上にある」と言う。人間はAIのように膨大な情報を高速で処理する能力はないが、世界を身体に接地させ、アブダクション推論をしながら、自分で知識を拡張していくことができる。

小学校では、34年生から学ぶ内容が急に抽象的になり、ついていけなくなる子どもが増える。「9歳の壁」だ。大人の側には「知識は教えるもの、教えられるもの」という誤解がある。認知科学に「スキーマ」という言葉がある。スキーマとは、「学習者が(というよりすべての人が)経験から導出した暗黙の知識」である。「暗黙の知識」は、経験から学習者が無意識のうちに創りあげた「知識の塊」だ。スキーマに合わない情報は、目の前にあっても、丁寧に説明されても頭に入ってこない。これが躓きの原因となる。知識の断片を「覚えること」「覚えさせる」ことではなく、自ら知の世界を探索すること、概念の本質を自分の推論によってつかむことこそ重要。教える側は、子供たちが自分勝手に誤解をしていないかということに注意を向けなければならない。子供に合わせたサポートをすることが重要だと言う。

どこに躓くか――「数に躓く。分数で躓く。掛け算・ 割り算で躓く」。要するに意味がわからない、概念的な理解ができていない。分数、小数、自然数の量的な関係も理解できていない子どもが大勢いる(2分の13分の1の大小関係がわからない小学生が5年生になっても半分ほどいる)。大事なのは、数字自体ではなく、「数字の意味」なのだ。

さらにどこに躓くか――「読解に躓く」。「読むことを始める前、つまり文字を覚えることを始める前に、どれだけ耳から聴いた単語をたくさん知っているかが読めるようになるために大事なのである」と言う。そして「問題文を理解するための語彙が足りない」「単位、時間、空間のことばを理解できない」「行間を埋めるための推論ができない」ことの現状を指摘する。さらに「思考につまずく」を分析する。

「学ぶ力と意欲の回復への道筋」――。「学校で育てなければならない力――記号接地と学ぶ意欲」「記号接地を助けるプレイフル・ラーニング」を具体的に解説する。上から教えるとか、振りかぶっての何分間読書などではなく、学ぶ力を「どう引き出すか」――「好きだから」「遊びの中で」、子どもたちが本来持っているものを引き出す教育を提唱している。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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