息をのむ、壮絶さに苦しくなった。「夫と人生を歩むと決めた日から、私はどこか脅えていた。そう遠くない将来、この人を喪うときが来るかもしれない――。私たちが出会ったとき、彼は血液透析を始めて8年が過ぎていた」から始まる。血液透析、そして母親の決断から腎移植、9年の後に再透析。夫である林新さんの苦痛を押さえ込んでの生きる力、最後の一瞬まで仕事を遂げようとする執念と気迫。24時間、片時も離れることなく全身で支え戦い続ける堀川さん。闘病と献身的介護、二人の心の強い結びつき、医療関係者との関わり合い、医師との感情のズレと葛藤・・・・・・。あまりにも壮絶、理不尽、辛くなる。透析をしている友人が何人もいるが、これほどのものかと思い知らされた。
「私たちは確かに必死に生きた。しかし、どう死ねばよいのか、それがわからなかった」「私たちには、どんな苦痛を伴おうとも、とことん透析をまわし続ける道しか示されなかった。そして60歳と3カ月、人生最後の数日に人生最大の苦しみを味わうことになった。それは、本当に避けられぬ苦痛だったか、今も少なからぬ疑問を抱いている」ーー。そして本書について、「透析患者の長期にわたる維持透析、移植期、そして終末期を取材することは、望んでも簡単にできることではない。まして、透析クリニックの内情、大病院での看取りの過酷な現実を、患者に24時間ずっと付き添い、リアルタイムで観察して記録に綴り、カルテまで入手する取材など絶対できない。・・・・・・そう自分に鞭を入れながら、私はふと『献体』のことを思った」と述べている。
血液透析は腎不全患者の血液中の老廃物と過剰な水分を取り除く治療で、現在日本の患者さんは約35万人だという。本書第一部では実体験が息苦しいほど語られ、「長期透析患者の苦悩」「腎臓移植という希望」「移植腎の『実力』」「透析の限界」、そして「透析を止めた日」が書かれている。第二部では問題点、課題、新たな選択肢などの挑戦が掘り起こされ、提起される。特に緩和ケアと腹膜透析。また透析の方針の選択に当たって、患者とその家族等への丁寧な情報提供と患者の気持ちに沿った要望とのすり合わせが不可欠だと訴えている。それらが「巨大医療ビジネス市場の現在地」「透析患者と緩和ケア」「腹膜透析という選択肢」「納得して看取る」の各章で述べられる。
あまりにも深く、心に突き刺さる衝撃作。