昭和初期の金沢。花街に暮らし、生き抜く芸妓たちの物語。「梅ふく」の女将・時江。物語の中心となるのは、朱鷺とトンボの仲の良い2人。共に年齢は20歳ほど。古株は君香32歳で、26歳の桃丸がいて、芸妓4人。振袖さんの琴菊、見習いの「たあぼ」2人、置屋の運営・管理をする稲、そして通い女中のフミの総勢10人の所帯。朱鷺は7歳の頃に売られてきたし、トンボはロシアの血が混じり橋の下に捨てられていたのを、女将の時江が拾い上げ育ててきた。花街の女は皆、辛い過去を心に秘めて生きてきた。日常のふとしたことから噴き上げる出来事、事件を、きっちり7話連続仕立てで、見事に描き切っている。
男女の交わり、悲恋、嫉妬、愛憎、騙しと騙され、意地・・・・・・。社交の中心であった花街の風情が穏やかに、そして鮮やかに、きっぱりと表現され、引き込まれた。
「金沢には、金沢城を真ん中に、南に犀川、北に浅野川が流れ、犀川はおとこ川、浅野川はをんな川と呼ばれとるんや」「ふたつの川は一度も相容れぬまま海に流れつくが。無常というかせんないというか、まさに男と女そのものややろ----」「ただ、何をするにしても、その時は覚悟を決めんとな。覚悟がないと、道に迷ってしまうさけ」「あたし、覚悟って考えて考えた末に決まるもんやって思っとったけど、意外とあっさりしとるんやな。自分でもびっくりやった」「巻き込まれたんやない。トンボが覚悟を決めた時、あたしも決まったが。言っておくけど、それはトンボのためやない、あたしが決めたあたしの覚悟やさけ」・・・・・・。
思うに任せぬ境遇のなかで、必死に、精一杯生きる女たちの姿、涙を隠し、きっぱりと肚を決める女たちのしなやかで潔い姿、互いを思いやる姿が心に迫る。