nintisyou.jpg「認知症になったら理性や人格が壊れ、何もわからなくなってしまう」というのは誤り。「認知症になったらおしまいではない。自分でできることと、できないことがある。できないことがあるのは不安だが、できないことの中にも少しはできるものがある」「認知症は何もわからなくなった人ではない」――。「長生きすれば認知症になるのは自然なこと。あなたの人格も心も失われることはないのです」「高齢者のアルツハイマー型認知症は病気ではない」(松下正明東京大学名誉教授)。長い間に刷り込まれてしまった歪んだ認知症観を変え、認知症の人の本質を見なくてはいけない。そして認知症になっても、幸せに生きる社会を目指そうと訴える。

認知症とは、認知機能が障害を受け、脳の神経細胞が壊れて記憶などの認知機能が低下し、日常の生活に支障をきたすようになった状態。アルツハイマー型認知症、血管性認知症、これにレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症を加えると、92.4%になる。この中で圧倒的多数を占めるのがアルツハイマー型認知症で67.6%に及ぶ。しかもアルツハイマー病の1番のリスク・ファクターは年齢であるゆえに、老年期のアルツハイマー型認知症だけが増えているわけだ。神経細胞の周りに、アミロイドβたんぱくという物質が蓄積して、神経細胞に障害をきたす。この変化は、脳の老化現象の現れであると理解すると、アルツハイマー型認知症は病気ではなく、脳が年をとってきた証に過ぎない。まさに「認知症は病気ではない」と言う。

2025年、認知症高齢者数は471.6万人、MCI高齢者数は564.3万人と推計されている。合わせれば1000万人を超える。70歳代後半では10人に1人だが、80歳代前半になると10人に2人に増え、85歳からは実に10人に4人と急増する。90歳代前半になると10人に6人という。アルツハイマー型認知症が、脳の老化現象の表れと理解すれば、「95歳以上になると10人に8人が認知症」というのもよくわかる。そして著者は「認知症は病気ではなく老化。心の中は私たちと同じだ」と指摘する。

認知機能の低下で日常生活に支障が出てくるのが中核症状で生活障害を招くことになる。しかし、二次的に引き起こされる周辺症状がある。

「周辺症状」と「BPS D」――徘徊や暴言・暴行、物盗られ妄想など深刻な問題だ。国際的には周辺症状が「BPSD(認知症の行動・心理症状)」と言われる。本書はこの家族を悩ませている「徘徊」「物盗られ妄想」「暴言・暴行」について、認知症の人が綴った「手記」を手がかりに、それらが引き起こされる背景について徹底的に検証している。納得する。これらは、人間関係のズレなどから生まれたものがほとんどであることを示す。どうやって改善もしくは軽減させたか。この周辺症状が「病気」の症状では無いこと。家族に何ができるか。「とにかく笑うこと」「生きがいが暴言を抑えた」「居場所が不安を和らげる」などの実例が紹介される。認知症の人の心の声を徹底して聞く。そして支える。すごい努力が身に迫ってくる。辛くて暗い闇が晴れてくる。

「共生」と言うが、「認知症とともに生きる」とは、「自分が認知症になっても、認知症の症状を抱えながら幸せに生きる」ことであることがよくわかる。すべての人に読んでもらいたい本だ。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ