親がいない、虐待を受けている子どもはどう生きる――。蛍が舞う祭りの夜ーー山間の小さな町に暮らす中学生のクラスメイト坂邑幸恵と桐生隆之は、生きるために、互いの重大な秘密を守り合うことを決める。幸恵の両親が火災で焼死、隆之の親父(内縁)の死にそれぞれが関わっていたのだ。共にひどい親だった。・・・・・・それから15年後、同じ蛍が舞う場所で、ニ人は偶然、嘘のような再会をする。「どうしてここに、またこの男がいるの」・・・・・・。
幸恵は涙をこぼす。「お腹の子の父親が・・・・・・いなくなったの。貯金も、金目のものも全部持っていかれた。しかもわたし名義の借金もある」「ここで死のうと思ったんだよ。わたしが知っている中で、一番綺麗な場所でさ」――。励まされて幸恵は子ども(正道)を産むが、自分は出血性ショックで亡くなる。しかも幸恵は去って行こうとする相方を殺害してしまう。
どぎつい、町田そのこの作品と思えないようなサスペンスまがいの導入で引き込まれるが、殺人を犯した親を持つ正道がどう生きたか、その周囲で展開される親子の愛憎が描かれる。息苦しさの中で、ごくありふれた家族の日常の「ありがたさ」「温かさ」そして「居場所の大切さ」が心に染みいる。蛍のような優しい光が人が生きるなかでいかに貴重なものかを思い知る。
正道の養父となって距離を置きながらも育てる隆之。「親に幸せを摘み取られた子ども」「子どもの頃から奪われてしまったものを取り戻すなんて簡単ではない」・・・・・・。隆之の葬儀には本当にお世話になったという人が自然と集まった。
人を救うのは、支える人の温かさ。「ずっと夜のままかもしれない。そう思ったあの日、あなたがわたしの光になった」・・・・・・。