東日本大震災の混乱のなか、2つの殺人を犯し、逃亡しようとする青年・真柴亮。それを追う刑事・陣内康介たち。
生まれてすぐに、家族を捨てた父から突然届いた1通の手紙。それを手に、父のいる北へ向かう途中、津波の中で家族とはぐれた子供・直人と出会い、2人しての奇妙な逃亡となる。一方、陣内は事件に忙殺され、娘を必死に探す妻と決定的な辛い亀裂を生んでしまう。事件は、福島から岩手へ。避難所となっている体育館へ立てこもる真柴亮は・・・・・・。
「この世には、どこまでもついていない奴がいる」「父親が(ひき逃げ)事故を起こしていなかったら――母親と別れてなかったら、亮がニ人の人間を殺してしまうことはなかったはずだ。いま、自分が警察に追われて、体育館に追い詰められているのは、すべて父親のせいなのだ」「どうしてこんなことになってしまったのか、考えた。いったい誰を恨めばいい。娘を失った悲しみのあまり、自分に間違った父親像を植え付けた祖父か。車にひかれた高齢者か。酒を飲んでいながら、車を運転した父親か。甲野が店で半グレと揉めなければ、眉なしに恨まれることはなかった。眉なしが死ななければ、警察官を殺さずに済んだ。そして、震災が起きなければ、自分は殺人犯にならなかった」・・・・・・。凶悪犯とは程遠い若者が、次から次と転落の罠にはまっていくのだが・・・・・・。
あの東日本大震災の津波・・・・・・。必死に家族を探し、そして家族を失う。「命」「家族愛」のギリギリを追い求める、しかし「救いがある」「勇気づける」柚月裕子の力作。