seiyouno.jpg「日本と世界に何が起きるのか」が副題。202411月の刊行。今なお続くウクライナ戦争は「世界に何が起きているのか」をあらわにしている。

冒頭に、ウクライナ戦争に対して「10の驚き」を提示している。「ヨーロッパで戦争が起きたこと」「敵対する2国がアメリカとロシアだったこと」「ウクライナの軍事的抵抗の強さ(ウクライナは1991年の独立以降、人口流出と出生率の低下により1100万人の人口を失い、オルガルヒに支配され、汚職のレベルは常軌を逸する崩壊状態にあった国だったが、戦争自体が存在理由となった)」、そして「経済制裁があっても、ロシアは強靭で安定していたこと」「ヨーロッパの主体的な意思の崩壊(特にドイツとフランスの違い)」「イギリスが反ロシア派として現れ、こうした好戦主義はフィンランド、スウェーデンのスカンジナビアに現れ、NATOに加盟したこと」、さらに「軍事大国アメリカがウクライナに対し砲弾をはじめ何も確実に供給できなくなっていること」「インド、イラン、トルコなど『その他の国』が西側に組せず敵意すら持つ発展途上国がいること」を挙げる。まさに「西洋の敗北」と指摘している。そして「ウクライナの軍事的優位性(頑張り?)が、逆説的にアメリカを罠にはめてしまった」とも言うのだ。

つまり、ウクライナ戦争は"世界のリアル"を白日のものにさらし数々の「真実」を明らかにしたと見る。それは「ロシア社会の安定、勝利は、確実でも5年以内に決着を迫られるロシア、戦争自体が存在理由となったウクライナ、反ロ感情とドイツ経済に支配される東欧と例外のハンガリー、対米自立という夢を失った欧州、国民国家としての衰弱・崩壊のイギリス、フェミニズムが好戦主義を生んだスカンジナビアの逸脱、知性もモラルも欠いた学歴だけのギャングが外交・軍事を司り、モノではなくドルだけを生産するアメリカの衰退、ロシアの勝利を望む『その他の世界』」という構図だ。

本書は、政治・経済・軍事だけでなく、「なぜ、そうなっているのか」の根源を抉り出している。「今日の危機は、プロテスタンティズム・ ゼロ状態への到達だ」と指摘する。M・ウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で指摘している精神だ。良き時代のアメリカは、プロテスタンティズムのポジティブな価値観(高い教育水準、白人間の平等主義)が横溢していた。著者は「1930年代のドイツのダイナミズムと、現在のアメリカのダイナミズムは、空虚を原動力とする点で共通している」「今日のアメリカに私が見るのは、思想面における危険な『空虚さ』と脅迫観念として残存している『金』と『権力』である。金と権力は、それ自体が目的や価値観にはなり得ない。この空虚が、自己破壊、軍国主義、慢性的な否定的姿勢、要するにニヒリズムへの傾向をもたらす」と言う。「プロテスタンティズム・ ゼロ状態」へ向かうアメリカは神という権威の監視を感じなくなり、出生率は低下し、性革命・ジェンダー革命が進むが、著者は「トランスジェンダー」は別次元の問題と指摘する。知性の崩壊、黒人の解放、銃乱射事件、肥満、少数の最富裕層が寡頭的社会の頂点を形成する社会----。全てがそこに連鎖する。「つまり、ロシアの権威主義的民主主義に対する西洋の戦いを主導しているのは、『自由民主主義』ではなく、ニヒリズムによって磨き上げられた『リベラル寡頭制』なのである」「アメリカの寡頭制の悲劇は大部分が虚飾でしかなく、しかも崩壊の過程にある経済の上に君臨しているという点にあるのだ」と言い、ドルという不治の病(米国経済の虚飾)などを示している。

そして日本----。「西洋の敗北は、日本が『独自の存在』としての自らについて再び考え始める機会になるはずだ。日本が西洋の一部としてではなく、ネオリベラルの極西洋(アメリカ、イギリス、フランス)と『その他の世界』の仲介役として自らを捉える機会にもなるはずだ」と言っている。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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