「線をひくのはだれか?」が副題。「法令を作るときは、どうしてもどこかで『線引き』をせざるを得ない。それが本当に妥当なものかどうか、常に問い続けることが必要なのではないか」「また、私たち自身も、無意識のうちに自分の心の中で『線引き』をしていることがあるのではないか」・・・・・・。本書は、国籍やルーツとアイデンティティー、ステレオタイプと差別意識、「線引き」と「当事者」の意味について、様々な背景を持つ6人との往復書簡・対話を交わす。在留外国人が増えている現在の日本にとって、大事な気づきをもたらす貴重な著作。
「自分が『日本人』でないことを最後まで明かさなかったお父さんを持つ安田菜津紀さん」「ドイツと日本の『ハーフ』で、どちらかひとつには決められない複雑な事情、心情について語るサンドラ・ヘフェリンさん」「イラン・イラク戦争の最中に孤児となり、8歳の時に、義母と2人で日本に来て、俳優・タレントとして活躍しているサヘル・ローズさん」「祖国ミャンマーの政府によって、国籍を奪われて『無国籍』となり、難民として日本に来たロヒンギャの長谷川留理華さん」「子供の頃、在日コリアン2世のお父さんが『国籍』を理由に差別的な扱いを受けて激怒したことを鮮明に覚えている金迅野さん」「フィリピンと日本の2つのルーツを持ち、大阪の被差別部落で生まれ、無戸籍・無国籍児から8歳で、『日本人』となった三木幸美さん」の6人。
私たちの多くは、自分の国籍を意識することは日常的にほとんどない。だが本書を読むと、いじめや差別に会い続け、国籍を意識して生きざるを得ない人たちが、懸命に生きていること感じる。「国籍を障壁にしてしまういちばん根本的な原因は、人々の中にある『偏見』だと思う(木下)」「三度以上、難民申請をしている人々は、強制送還の対象となり得る仕組みとなってしまった(安田)」「ひっくり返したい『見た目』の思い込み・・・・・・。多くのハーフは、成人後も日本及び外国の国籍を持ち続けている。このような複数国籍の人について、日本では『ずるい』と感じる人が多いようです。国籍をひとつに絞ればというのは乱暴な発想。ドイツでは全面的に二重国籍が認められるようになった(サンドラ・へフェリン)」・・・・・・。2015年時点で国連の194か国中142か国が複数国籍を認めている。
「日本で生まれ育っていても、国籍がないことで今も不自由な思いをしている隣人が近くにいるかもしれない。法務省は、無国籍の人が約480人というが.もっと多くの『無国籍』の人が今、日本で暮らしている。私が思う国籍とは『個人の尊厳』だと思う。必要なことは『無関心』スイッチをどう『関心』スイッチへと入れ替えるか(サヘル・ローズ)」「今、『善い外国人』と『悪い外国人』のニ分化した捉え方がある(三木)」・・・・・・。
「見た目で判断される世の中はいや。私は23年間無国籍で生きてきた。マイナンバーカードは、外国人、日本人差別なく発行されるのでとても良い(長谷川)」。ロヒンギャの大変さが伝わってくる。
「『頭の良い人には、わからない』----。頭ではなく、からだを動かさないと、他者の痛みを本当に理解することはできない(木下)」「『傷』の自覚と『出会いなおし』の希望。経験に根ざす痛みのセンサーをわかち合うことが重要(金)」・・・・・・。
攻撃性を持つSNS時代――「痛みのセンサー」「個人の尊厳」に立脚することがいかに大事かが伝わってくる。「多文化共生社会」は表面的なスローガンではなし得ない。
