これまで「家族の愛と絆」「家族のトラウマ」「喪失による心の痛み」などを描いてきた著者のさらに進化(深化)した最新作。
ニ年前に父・原田啓和が他界し、先月には母・晶枝が急逝。不動産仲介管理会社で働く原田燈子は天涯孤独となる。母が亡くなり実家の整理に訪れた燈子は、母が書いていた日記を見つける。4つ下の弟・輝之が3歳の時、車にはねられ死亡、家族には心の中に「大きな穴」が開いていた。「私が目を離したから」との罪の意識は晶枝の心から離れず、夫の啓和は、それをかばい守ろうと意識した。「母親も、父親も、輝之もいなくなった。・・・・・・この家には、本当は誰もいなかった。もうずっと前から」・・・・・・。弟の事故死をきっかけにして、家族はそれぞれの心にこもってしまったのだ。
やがて日記には亡くなった母の筆跡で色のない文字が刻まれるようになった。亡き後も綴られる書かれるはずのない母の日記。
物語は燈子のいる「この世」と両親がいる「あの世」が日記を通じて往還する形で進む。不思議な「あの世」では、様々な後悔や執着、傷を抱えた人々がそれを消化できないまま、死者の「夜行」に加わったりしていた。晶枝と啓和も出会い、「なぜ目を離したか」と悔恨する晶枝、「輝之はどうして死んだんだろう。どうして目を離したのかじゃない。どうして輝之は車道に出たのか」と言う啓和。
「どうして車道に出たと思う? 公園に寄ってくれて嬉しかったんだよ。今世界で一番幸せ! みたいな気分になった。はしゃぎすぎて、ただ、失敗したんだと思う」という境地にたどり着く。
「今、輝之はどこにいるのだろう」――。生と死。この世とあの世。それは切れてるのかつながっているのか。宇宙生命に溶け込んでいるのか。有と無、そして空。ダークマターとダークエネルギー。「量子もつれ」・・・・・・。本書は、生と 死を日記でつなげているが・・・・・・。
