短編の名手と言われる著者の長編サスペンス。現在の自分の存在が、無数の人たちが紡ぐ糸の絡み合いの中で形づくられることを、じっくりと描く。喪失感の時空が離島の寂寥とともに迫ってくる。
タクシー運転手の川西青吾は恋人・ 中園多実と一緒に暮らしていたが、ある日、家に帰ると帰宅しているはずの多実がいない。音信不通が続き、焦りを募らせていたところ、五島列島の遠鹿島で海難事故に遭って行方不明と知らされる。多実は青吾の知らない男・出口波留彦と一緒だったという。多実の持ち物からは、音信不通になっている青吾の母が写っている昔のテレフォンカードが見つかる。
そこへ突然、出口波留彦の妻と名乗る沙都子が訪ねてくる。謎の多い事故の真実、多実と波留彦の関係を求めて、青吾と沙都子は遠鹿島へ向かう。沙都子はしっかり者で積極的な女性。人の良い青吾。不思議な事件の真相を探る旅は、次第に多実の人生、青吾自身の母親とのつながり、波留彦と島を支配していた父親や島自体のきわどい歴史などの思いもよらぬ場所へとニ人を誘い込んでいく。
遠鹿島に住んでいた多実、そして青吾の母。波留彦の父の悪どい支配と好き放題の放蕩。波留彦の父と反目しあっていた町役場に勤めていた浦誠治の溺死事件。東京で起きた青吾の母・久美子の放火殺人事件・・・・・・。
五島列島の離島を舞台にした絡み合う人間関係。一緒に住みながらも、秘密を抱えて暮らす男女に訪れた突然の別れと、それを探りながら深まっていく喪失感と愛を描いた心惹かれる力作。
