第15回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。「イスタンブールの魂と力はボスポラス海峡から来るのである(オルハン・パムク)」――。東西が交差し融合する魅惑の都市・イスタンブールで起きた不可解な自殺と連続殺人事件。自殺した日本人ピアニスト・古谷ヒデミは遺書として「私に死を決意させた女たち、真の犯罪者たちをここに告発します」と3人の名前をあげる手紙を送っていた。在イスタンブール日本人の丸川真理恵、山屋葉月とインターナショナルスクール教師のエジェ・ カプランの3人が、その子を使ってヒデミの息子・海斗をいじめ、脅しをかけ、犯罪者に仕立て上げようと企んだという告発だ。捜査に入った左遷明けのオヌール警部補、彼の部下で漫画好きのジャン巡査部長、そして本庁国際犯罪課のエリート警部・セルビルの3人は、その謎めいた告発の裏取り調査を進める。
その中で、在トルココミュニティーのチューヅマ(駐在員の妻)たちの特殊なヒエラルキーの人間関係が浮かび上がる。さらにこの街で女性の転落事件が頻発しており、そこに関連があるのかどうかが調べられていく。さらに、この3人の女性はパリの高級ブランド「エベール」の模造品売買を行っていることが発覚。また転落死した女性・トゥーチェはカプランの手下で、ヒデミの夫で大学特任教授の古谷渉を誘惑し、愛人関係にあったこともわかる。「ヒデミのプライドをボロ切れ同然にすること。理由はヒデミへの嫉妬、理屈なき憎悪----」との証言も出てくる。さらにその古谷渉が襲われ死亡する事件、カプランが連れ去られる事件が起きる。実に複雑怪奇・・・・・・。
事件は、「子供を使ったセレブ駐妻の嫌がらせ」というありがちな物語にしては凄惨すぎる。次第に全く反対のヒデミと息子・海斗の特異性が明らかになってくる。ヒデミは怨念の中で人を操る「女神アテ」、海斗は瓜二つの同じ悪魔的な知恵を持ち自分の野心のために邪魔なものを全て排除する恐るべき悪魔のような子であることがわかっていく・・・・・・。
描かれるこれらは、主にある1日の出来事。あまりに複雑、あまりに多場面、あまりの多視点で、迷路に入ったようで翻弄され続ける。「今度の醜い土鳩は、子供を喰った」――。ボスポラス海峡、イスタンブールの上空を飛ぶ土鳩の表紙が不気味で印象的だ。
