handoutai.jpg「世界を制する技術の未来」が副題。1988年に世界の50%あった日本の半導体のシェアが今では10%。捲土重来、「定石だけでは失った30年を取り戻すのは難しい。競争の舞台の第2幕を予見して、先行投資をする事が必要。剣道でいう『先々の先を撃つ』だ」と言い、激変する半導体の世界の動向と、日本の攻めるべき戦略を明示する。

世界は微細デバイスを探求し、半導体の微細化が限界に近づくなか、「日本は、長年の休眠から目覚めて、一気に2n m以細の微細世界に挑戦する」「多様なデバイスを1つのパッケージに3D集積する時代に入る。3D集積技術はその筆頭である」「メディアは大企業の盛衰に注目する。しかし、大企業を支える豊かな土壌、つまり産業のエコシステムのネットワークの力こそが、産業力である。日本は、半導体の製造装置と素材が強いと言われるゆえんはここにある(TSMCは未開地に工場を建てない。ブラウンフィールド、つまり、産業エコシステムが豊かな土地にしか工場を建てない。熊本にはそれがある」「競争するだけでなく、互いを支え合う協力のルールこそ重要。超進化論――多様性を育む仕組みだ」「日本の半導体産業は、森を育てることに力を注いできた。それが今、世界から評価されている」「競争に加え、共生と共振化を生み出す産業界のエコシステム。日本の文化と社会の中で醸成されてきたこのエコシステムが、国際連携の中で、息を吹き返そうとしている」「キーワードは、国際連携、国際頭脳循環、ネットワーク、共生、共進化である」と述べ、TSMC新工場の熊本県誘致と日米連携の中で生まれたラピダスが、新しい時代を切り開くことを明らかにする。

この世は競争ではあるが、生き物の進化の仕組みをよく見れば、「競争するだけでなく、互いを支え合う協力のルール、つまり超進化論」が見えてくる。半導体を競争の時代から共生・共振化の時代に進めるため、半導体の『花』を見つけることができるだろうか」と意欲的で肺活量の大きな構想を示し呼びかけている。

汎用チップから専用チップへ。エネルギー効率の高い専用チップを効率よく開発し半導体の微細化と3D集積を図るテクノロジー。世界の頭脳を惹きつける。デジタル社会のインフラに総力。産業のコメから社会のニューロンへ。覇権を奪取するのではなく民主化を進め半導体を世界の共通資産にする。大逆転への動きが始まっている。


tugihagu.jpg惣菜と珈琲のお店「△(さんかく)」を営む仲睦まじい3兄妹。ヒロと1歳上の晴太、そして中学3年生の蒼の3人だけで暮らしている。ある日、蒼は卒業したら、家を出て、宿舎のある専門学校に行くと言い出す。ヒロは激しく動揺し反発する。実は3人は、血のつながりがなく、それぞれ親と切り離される事情を抱えつつ兄妹として深くつながり、助け合ってきたのだった。

「私たちは、やっぱりすぐに破れるつぎはぎでしかないのだろうか」「無邪気な晴太。蒼が生まれることで、養子の自分がすでに黒宮家にとって不要なものであることになんて思いも至らなかった。でも、その蒼もいらなくなって、こうして晴太と同じ家にたどり着いた」「蒼は私にも晴太にもよくなついていた。私たちははたから見れば、まるで兄弟のように一緒に暮らし、当たり前のように、蒼の保護者となって、人に関係を聞かれれば迷わず『兄弟です』と答えるようになっていた」。それだけに蒼が家から離れる衝撃は大きく、「お願いだから邪魔をしないで、やっと手に入れた場所を奪わないでと心が叫んでいた」のだ。

必死で家族であろうとする兄妹。家族という絆が切り離された時、足元のおぼつかなさだけが残る。しかし、この"事件"をきっかけにして、「私たちはゆっくりと小さな幸福を作ってこられた。三人の、三人だけのための小さな家の中で」から、それぞれが自立し外に踏み出そうとする。「私は一人の私でありたい。ひらめいたような心地で顔を上げた。誰のものでも、誰のための私でもない。ハワイでも日本でも、晴太や蒼がいてもいなくても、決して揺るがない私でありたい。それができなかったから苦しかった。小学校も、中学校も高校も、黒宮慎司の前でも、私は胸を張って立っていなかったから、ビクビクと卑屈に目の前を見上げていたから苦しかったのだ。晴太や蒼の不在に怯えたのだ」

11回ポプラ社小説新人賞受賞作。なかなか良い。


kakusanokigenn.jpg「なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか」「人類の旅」が副題。壮大な人類史を圧倒的な力量で描く。

30万年前にホモ・サピエンスが誕生して以来、人類史の大半で人間の生活水準は生きていくのがギリギリだった。生存と繁殖の追求そのものだったといってよい。そして12000年前に狩猟採集から食糧栽培の定住生活に切りかえ、農耕社会は技術の恩恵をたっぷり受け、その状態は数千年続いた。技術の進歩は人口の増加を促したが、マルサスの罠(人口は制限されなければ、幾何級数的に増加するが、生活資源は算術級数的にしか増加しない)、貧困の罠に閉じ込められてきた。技術革新は長きに渡って経済の繁栄を促したが、結局は「人口増」によって、人々の暮らしは生存水準に引き戻された。また飢餓や疫病の影響から、平均寿命が40歳を超えることも稀だった。人類は誕生以来、生きていくのがやっとという暮らしを続けてきたが、200年ほど前を境にその状態を脱して持続的経済成長の時代に入った。

これが、本書の第一部の「何が成長をもたらしたのか――成長の謎」だ。一人当たりの所得は14倍に急上昇し、平均寿命は2倍以上に伸びた。人類の歴史を通しての技術の進歩は、加速を続けるなかで、「液体が気体」となるごとく臨界点に達したのが産業革命だ。そこでは特別な資源の需要を高めることになる。技術環境に対応できる技能と知識、養育や教育への投資を増やすことになったが、それは出産数を抑えることにもなった。ここにマルサスの罠とも別れる経済成長と出生率との根強い正の相関が絶たれ、成長と人口増加の相殺効果から解放されたのだ。

しかし一方、その経済的繁栄が一部の国や地域にとどまり、この2世紀ほどの成長は、全世界で均等には起こらなかった。本書の第二部は「なぜ格差が生じたのか――格差の謎」を論じている。その格差の謎について、出アフリカの歴史、アフリカからの距離によって「多様性」が異なることまで論証する。人類史のここの時代だけでなく、全過程の背後にある主要な原動力を探ると、「地理」「アフリカからの移動距離に相関する人口集団の均質性、多様性の度合い。そこに伴う文化」等の起源を掘り出していく。そして先進国と発展途上国との間には、「技術や技能、教育や訓練の充実」「人的資本への投資」「女性の有給雇用の増加」「社会の均質性と多様性の最適化」「未来志向」「平等や多元主義、差異の尊重」などが持続的成長の要因であることを示す。そして著者は、現代と言う経済成長の時代とマルサスの停滞の時代を別個の現象と捉えず、発展の全過程の背後にある主要な原動力を「統一成長理論」として打ち出す。「地理、アフリカからの移動距離」を初期条件とし、「制度と文化の要因」「人口構成と人口規模の歯車」に影響与え、最大の歯車である「技術の進歩」を回す。さらに「人的資本の重要性の増大」を経て、マルサスの罠を乗り越えて現代世界に至るのだ。

そして人類史的に見ても、「地球温暖化問題」の回避こそ重要だとし、人類の英知によって解決できると言っている。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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