2017年秋、東京で善良な弁護士・白石健介の遺体が発見される。捜査が始まり、1984年5月、愛知県で起きた「東岡崎駅前金融業者殺害事件」とつながっていることがわかる。そして、「白石さんを殺したのは私です。そして愛知の灰谷昭造を刺し殺したのも私です」と倉木達郎という初老の男が名乗りを上げ逮捕される。自供は明白、事件は解決したと思われた。二つの事件には、愛知の事件の犯人として逮捕され、留置場で自殺した男の家族・浅羽母娘と倉木達郎の人知れぬ関係が介在していた。
しかし、倉木の息子の和真は「父はそんなことをする人ではない。どうしても信じられない」と思い、白石の娘・美令も「あなたのお父さんは嘘をついていると思います。うちの父は、そんな人間ではない」との思いを募らせていく。「真実を知りたい」――加害者の息子と被害者の娘、立場上は敵同士の二人が、まるで白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぼうとするかのように、同じ目的に向かって手を組んで進むという驚くべき展開となる。「被害者の家族と加害者の家族の苦しみ」「罪と罰」が業火となって善良な者の心奥を襲う。宿業と因縁の世界が迫り、東野圭吾さんの描く世界に時空とも引き込まれる。「不器用」で「実直」な風土といわれ、中日ドラゴンズファンも多い愛知・三河地方の雰囲気もよく出ている。傑作長編。
「年々、LGBTQ政策に取り組む企業が増えてきていて、本当に素晴らしいと思いますが、まだまだ都市部、人事部門、大企業が中心です。パワハラ防止指針でも取り組みが義務づけられましたし、今後もっと、地方、現場、中小企業へと広がっていくことが期待されます」という。村木さんは、認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表。「LGBTQ視点が職場と社会を変える」が副題。「LGBTの当事者は日常生活でどのような困難を感じ、どのような社会を共に生きていきたいと望んでいるか」――。何に困っているか、という打開策もさることながら、生き辛さを感じ、苦しんでいる人の状況を知り、社会全体をあたたかなものへと変えていくことの重要性。「『LGBTも働きやすい職場づくり』、ひいては社会づくりの輪に加わり、アライ(LGBTの同盟者、支援者)として一緒に社会を変える力になってくれることを願っている」という。
「LGBTQであることは『趣味嗜好』ではなく、基本的に生まれつきのもので、自身の意志で変えられない」「SOGIは『性的指向』と『性自認』の頭文字。LGBTQという表現でもLGBは性的指向について、Tは性自認で別々」「LGBTQの働きやすい職場づくりは、他のダイバーシティ課題と一緒。就職時の困難、差別的言動、健康診断、アウティングのショック、職場での辛さ・孤立感、プライベートな話題、トイレ・更衣室・服装、育児休暇・介護休暇の付与」「トイレ利用にストレスを感じているトランスジェンダーの人は6割超。自認する性別のトイレを希望して実際にそちらを使っている人は、トランス男性の27%、トランス女性の35%。多機能トイレや男女共用トイレ」・・・・・・。先進的に取り組んできた企業の実例として、野村證券、ゴールドマン・サックス、ソニー、ライフネット生命(死亡保険金の受取人指定範囲の拡大)、大阪ガス、資生堂、楽天、NTTドコモ、グーグル、みずほ銀行、JT、LIXIL、TOTO、オムロンなどの具体例が示されている。
「選択的夫婦別姓」「同性婚」などが問題提起される今、「家族」についての対話は見逃せない。「私たちは"普通じゃない家族"の子だった」という二人。内田也哉子さんは樹木希林と内田裕也の娘であり、希林と裕也は同居していたのは最初の1~2か月、45年間はほぼ別居だが、娘のお宮参りなど、ことあるごとに写真館で家族写真を撮ったという。19歳で本木雅弘さんと結婚、三児の母として家族を最優先に生きてきたという。中野さんも大変裕福なエリートと思いきや、ご両親は離婚、親との葛藤を抱え込んできたという。
「2040年、日本人の半分が結婚を選択しなくなる」「アホウドリのカップルの3分の1はレズビアン(その時だけオスと浮気をし、子育てはメス2羽でする)(子育てと生殖行動は別)」「貞操観念はたかが150年の倫理観。本来、人間の性のあり方はもっと多様だった」「産みの親と育ての親はどっちの影響が大きいか(育ての親)」「知性は母から、情動は父から受け継ぐ」「脳科学は生理学の延長で自然科学、心理学は哲学の延長で考え方の仕組み」「生物にとっての最重要課題は、自身の生命の維持(集団のメリットと利己機能を削るストレス)」・・・・・・。
「家族のあり方というのは、一意に定まるようなものではなく、歴史的、民俗学的に見れば多彩な様式が存在した。その柔軟性が私たちにとっての生存戦略的な武器であった」「社会的な機能を十全に果たしていれば、家族というのは決して現在の私たちが刷り込まれているようなステレオタイプなものである必要はないはず」と中野さんはいう。「普通の家族とは何なのか」「家族ってこれでいいのか」と問いかけながら生きてきた二人の実感こもる対談。
凄まじい壮絶な人生の回顧録。タラ・ウェストーバーさんは、米国アイダホ州生まれ。ブリガム・ヤング大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学で研究者となった歴史家・エッセイストの女性。1986年、アイダホ州クリフトンでモルモン教サバイバリストの両親のもと、7人兄姉の末っ子として生まれ育つ。父親の極端な思想的呪縛の影響は強く、政府を目の敵とし、子供たちを学校に通わせない。科学や医療を否定し、民間療法を盲信、社会から孤立した暮らしをする。父親の廃品回収とスクラップの仕事は乱暴なもので、子供は命にもかかわる危険な作業を強制される。現実に爆発事故、落下事故、交通事故・・・・・・。親も子供も瀕死の大事故は、よくぞ何とか死を免れたと思うほどだが、身体に残った後遺症は大きい。父親だけでなく次男ショーンによる熾烈な暴力もタラを極限まで追い詰める。
あまりにも残酷、あまりにも過酷、深い絶望のなかで、タラは大学に行くことを決意する。学校に全く行っていない子供たちだが、絶望のなかで救いを求める光となったのが、彼女の強靭な意志、美しい歌声、凄い知力。「大学は私の人生を変えた」が副題だが、呪縛から離れて大学に行ったのではない。父母、兄弟の呪縛は、その後も間歇泉のように随時、噴き上がる。「あの場所は私に取り憑いていて、もしかしたら一生逃れられないかもしれない」と思う。ところが父は「結果から見れば、お母さんとお父さんが学校に行かせなかったのは正しかったんだ。ホームスクールのおかげだとなんで言わなかったんだ」「神の魂が歓迎されない場所(ケンブリッジ大)だったら、行くことはない」とまでいうのだ。愛憎のアンビバレント的関係に宗教思想原理の実践が加わったなかでも、家族の絆は放擲することができないのだ。最後の最後まで胸が締め付けられた。全米で大きな話題となったベストセラー。
ユニーク、かつ面白い。「地形」は人間の生存にとって最も本質的であるからだ。首都圏をぐるりと囲む330キロの環状道路国道16号線。三浦半島の付け根から横須賀、横浜の海辺を走り、東京に入って町田、八王子、福生を抜け、埼玉の入間、狭山、川越、さいたま、春日部を過ぎ、千葉の野田、柏、千葉、市原から再び東京湾岸の木更津、富津に至る馬蹄形の国道16号線。ここには今、1100万人もの人が住んでいる。
縄文時代の「遺跡や貝塚」が多い。中世の「城」が多い。江戸幕府の頃から明治にかけて、日本の殖産興業と富国強兵の要となる生糸(八王子・富岡そして横浜の港)や軍事施設(それが戦後は米軍施設になる)、ユーミンやサザンに至るジャズやニューミュージックの音楽・文化、モータリゼーションのなかでの大団地やショッピングモール、大学の集積・・・・・・。そして今、大団地の疲弊(ニュータウンがオールドタウン)と高齢者の集積、環境を視野に置いたテレワークの新たな若者向け街づくり・・・・・・。日本そのものを映し出し、時代をくっきりと具現する日本・首都圏の文明の栄枯盛衰の国道16号線だ。
背景には「地形」がある。「4つのプレートがぶつかる世界でも稀な場所、黒潮の流れに突き出た2つの半島、急峻な丘陵地といくつもの台地、大きな河川が注ぐ巨大な内海の東京湾(利根川も家康以前は東京湾に注いでいた)、後背部に広い低地の関東平野、そして台地と丘陵地の縁に無数の小流域――。それを馬蹄形につなぐと16号線になる」という。大型平野そのものは、太古以来、大水害と高潮等で住みづらく、家康以来の利根川の東遷、荒川の西遷で変わり、戦後は高度成長や人口急増、土地バブル、公害等々の影響がそのまま現れたのだ。
「なにしろ日本最強の郊外道路(生糸が殖産興業を、軍港が富国強兵を、リゾートホテルと米軍とショッピングモールが同居、少子高齢化がもたらすゴーストタウン)」「16号線は地形である(船と馬と飛行機の基地となる、大学と城と貝塚が同じ場所で見つかる)」「戦後日本音楽のゆりかご(矢沢永吉とユーミン、ルート16を歌う、ジャズもカントリーも進駐軍に育てられた)」「消された16号線――日本史の教科書と家康の罠(16号線の関東武士が頼朝の鎌倉幕府を支える、太田道灌が拓いた豊かな水の都、"江戸は寒村だった"は家康伝説の強化策の面も)」「カイコとモスラと皇后の16号線(皇后が引き継ぐ宮中養蚕の伝統、八王子と横浜を結ぶシルクロードと鑓水商人、天皇家の蚕と渋沢栄一)」「未来の子供とポケモンが育つ道(定年ゴジラが踏み潰す老いたニュータウン、コロナとバイオフィリア=生物愛が16号線を再発見させる)」・・・・・・。
こうして見ると時代の変化は16号線に現われる。変化を見ようとするなら国道16号線から目を離すな、ということだろう。
