83460805bf3ff903111954d42611a87c606b559c.jpg「言葉にはそれぞれの温度があります。温もりと冷たさの程度が、それぞれ違うのです。温もりのある言葉は、悲しみを包み込んでくれます。生活に疲れたとき、ある人は友人とおしゃべりして悩みを打ち明け、ある人は本を読んで作家が投げかける文章から慰めを得ます。溶鉱炉のように熱い言葉には、感情がぎっしり詰まっています。それを口にする人は気持ちがすっきりするかもしれませんが、聞く人の心にやけどを・・・・・・」――。韓国で150万部を超えるベストセラーエッセイ。言葉の大切さ、何気なく発する一言のもつデリケートさ、重要さを感動のなかで改めて思う。生命が豊かでないと、余裕がないと、教養がないと、そして辛い経験がないと、発する言葉がいい温度にならないだろう。

「もっとつらい人(つらい人のことがわかるのはもっとつらい人なのさ)」「いまもあなたを気にかけています(相手を自分の一部と思えるかどうかが、真実の愛と偽物の愛を見分ける基準になるかもしれない)」「本当の謝罪は痛みを伴う(謝ることは世界でいちばん難しい)」「偽物と本物の見分け方(本物に対する確信が必要です。偽物は必要以上に派手なんです)」「宇宙くらい大きな事情(夫は幼いころに事故で視力を失いました。・・・・・・その裏に何らかの事情をもたない人はいない)」「喜劇と悲劇(人は興奮すると、自分が口にした言葉と行動を比べてみることができなくなるようだ)」「自分に合った道(自分をだましたら、もっと暗く、重い刑罰が待っている)」「愛という言葉の由来(人が愛をつくりながら生きること、それがすなわち生ではないだろうか)」「満開の華やかな瞬間よりも、半分くらい咲いたときのほうがずっと美しい場合もある(絶頂よりも美しいのは、絶頂に上る過程ではないだろうか)」「プロとアマチュア(プロはやりたくない仕事も泰然とやり遂げる。アマは好きでやる、楽しめばいい)」「活字中毒(何かに酔わなければ、何かに惚れこまなければ、面白みがないのが人生なのかもしれない)」「管理人さんの手帳(認知症と診断され、記憶がこっそりと逃げ出すような感じがして)」「始まりと同じくらい大切な終わり(文章も人生も)」「感情は動くもの(そんなショーは、ひたすら娯楽という目的地に向かう暴走機関車のようだ。途中で止まれず、加速を付けながらひたすら目的地めざして突っ走るしかない。文明も途中で止まれない)」「済州島が教えてくれたこと(転んだらそのついでに休んでください。たまには空白の時間を持つこともいいもんだよ。人生には空白も必要)」「線を引くということ(人間の不幸の多くは、人と人の間に線を引くことから始まるのではないか)」「彼女はなぜ撮ったか(都市の光よりも影に目を向け、小市民たちの笑いと涙を記録した)」「体の声を聞く(他人とコミュニケーションをとるが、自分とコミュニケーションをとる人はまれだ)」・・・・・・。

新型コロナに覆われ、戦っている現在、より敏感に感じる言葉と心の温度。


10cfa2b539b8478a43869b6834b2abd585bc674b.jpg宮部みゆきの新シリーズ始動! 「私がずっと書きたかった捕物帖です」という。主人公・北一(きたいち)は16歳。迷子だった北一を深川元町の岡っ引き、文庫屋の千吉親分が引き取って育ててくれた。ところが突然、千吉親分がふぐに中毒(あた)って死ぬ。時は江戸時代。小説の主役は武士ではない。江戸の町、長屋暮らし、商家の人々の日常に潜む事件や怪談話、呪いや噂、生老病死などが、知恵と情あふれる解決策で結着をみせる。

「ふぐと福笑い」――。福富屋の遠縁の材木屋に代々伝わっている「呪いの福笑い」。出して遊ぶと必ず祟るというが、知らずに子どもたちが遊んでしまう。どう収めるか。千吉親分に連れ添った「おかみさん(目が見えない)」の凄さ、賢さ、千里眼が発揮される。「双六神隠し」――。裏店暮らしの松吉、魚屋の倅の丸助、商家の跡目の仙太郎の3人は同じ手習所に通っていたが、松吉がある日"神隠し"にあう。3人が打った"閻魔の双六"の一芝居。北一の勘は冴えを見せる。「おかみさん」の鋭さや町の人々の情が滲み出る。

「だんまり用心棒」――。菓子屋「稲田屋」の道楽息子に、富勘が鮮やかな大芝居で鉄槌を下す。しかし、意趣返しなのか、その富勘が攫われた。釜焚きの喜多次の働きによって北一は富勘を助け出す。二人の「きたさん」の誕生、「きたきた捕物帖」が始動する。「冥土の花嫁」――。深川佐賀町の味噌問屋「いわい屋」の跡取り万太郎が嫁を迎えることになった。その祝言を挙げる日、突然、万太郎の先妻・菊と名乗る女が現われる。この大騙りを仕掛けてきた悪人たちをやっつける。

優しさと人情、それに「北一」の成長が加わる物語。


2433e6b737fb7f8838e8fe0a730de39795da6937.jpg「人生100年時代の『お金の長寿術』」が副題。「儲け」ようとする資産の運用術ではない。堅実に何が資産かを冷静に考え資産を長寿化させる「診断・把握・処方」の具体的な方法を示す。「健康寿命」と「資産寿命」が人生100年時代では大事なのだという。

フツーのサラリーマンは「延ばすも何も資産なんて持ってない」と思いがちだがそうではない。「最も大きな金融資産は『公的年金』」「老後生活のお金のやりくりの理想は、①日々の生活は公的年金で②趣味や楽しみのための費用は働いて得る収入やそれを貯めた資金で③退職金や自分の保有する金融資産はできるだけ取り崩さず将来に備える――の3つ」「投資で儲けようとしない。投資の前に①働いて収入を得る②年金の受け取り方を考える③支出をきちんと管理する――の3つが大切」「サラリーマンで資産家になった人に共通するのは、収入以上にお金を使わなかった人(支出の管理)」「過剰な保険とローンは人生の支出で最大のムダ」「支出管理で大事なのはサンカク(義理・見栄・恥の3つを欠くこと)」「年金は貯蓄ではなく保険だ(保険は不測に備えるもの――不測は①長生き②病気、ケガ③自分が死んだ時の家族)」「年金は破綻しない。積立金(H30年3月末、198兆円)やマクロ経済スライド、所得代替率の意味」「投資は楽をして儲かるわけではない」「投資で絶対正しいのは、①先のことは誰もわからない②世の中にうまい話はない――の2つ」「制度を活用した資産運用――iDeCo。つみたてNISA」・・・・・・。

「資産寿命を延ばすことは必ずしも投資することだけではない。投資に頼り過ぎるのは良くない」ということがよくわかる。資産運用ビジネスを仕事にしてきた大江さんのアドバイスは、冷静で常識的で賢くて手堅い。


41kAGO0ufXL__SX342_BO1,204,203,200_.jpg「お父さんは小さい頃、羊毛は雲みたいだと思った。・・・・・・そこに飛び込むと雲のなかにいるようで。うちの仕事は雲を紡ぐことだって思っていた」――。登校できなくなった高校生の山崎美緒。母・真紀も父・広志も悩みをかかえ、家族全体が心が通じ合わず、崩れかけていた。思い余って美緒は盛岡の祖父・紘治郎の所へ駆け込む。大正期の民藝運動の流れを汲み、ホームスパンを織っている山崎工藝社。工房に触れるなかで、美緒は自分を取り戻し、訪ねてきた父と久し振りに父娘の会話ができたのだ。

しかし、母娘の間はうまくいかない。美緒も自分自身に"信"がたち上がってこない。仕事でも追い詰められた母・真紀は「涙を売りにして。どうしてあなたはいつも女を売りにするの」と罵倒してしまう。分かりあえない母と娘、それぞれの思いが業のようにスレ違う。父・広志も会社が売却されようとし、「俺も本当に疲れた」と家庭崩壊の危機を迎える。

祖父・紘治郎もかつて同じ道に進んだ妻・香代と別れた。その妻が死に、苦悩を心にため込み、乗り越えてきた。この「おじいちゃん」の語る言葉は明らかに"境地"に達した者の言だ。壊れかけた家族が美緒を中心に、ホームスパンの糸が心の糸となって紡がれていく。


じんかん.jpg松永弾正久秀(1508年~1577年)、大和国の戦国大名――。「将軍・足利義輝殺害」「仕えた主家殺し」「奈良東大寺の大仏殿焼き払い」という人がなせぬ大悪を三つもやってのけたといわれる戦国の梟雄。信長に二度従い、二度謀反した稀代の極悪人ともいわれる男だ。その松永弾正久秀とは何者だったのか。

天正5年(1577年)、天下統一に突き進む信長の下に「松永弾正謀叛」の報せが入る。二度目の謀叛という信じ難い報せに、信長は少しも慌てず怒りも見せず、笑みまで浮かべたという。そして信長は小姓・狩野又九郎に、久秀本人から聞いた九兵衛と呼ばれた幼き頃よりの壮絶な人生を語り始めたのだ。

この世に放り出された孤児。幼き子ども同士の結合。主君・三好元長との出会い。そこで聞いた高邁な志「あるべき者の手に政を戻し、二度と修羅が現われぬ世を創るのだ。民が政治を執る」「堺の自治。人間の国を取り戻す」「戦が無くなり、武士を悉く消し去る」――。噂話の軽薄さで動かされていく世間。神や仏のエセ権威に逃げ込む人間の浅はかさ。「永禄の変の将軍義輝殺害の後に信長がもらった弾正からの初の書状――。信長はいう『思わず笑ってしまった。嬉しくてな。』『世に神はいない。当然仏もいない。それらは人が己の弱さを隠すため生み出したまやかしである。神仏がいないのに、どうして人に過ぎぬ将軍如きに阿らねばならない。将軍の権威なるものもまた、人が生み出した紛い物だと存ずる・・・・・・』という書状だった」・・・・・・。

悪名の噂が支配する理不尽な世間。それが人と人とが織りなす「人間(じんかん)」のこの世だ。久秀は弁明する道も迎合する道もとらなかった。"夢を追う道""己に正直である道"を選んだのだ。「人は己の一生に正直になればよい」「俺はつくづく人の縁に恵まれた男よ」と思ったのだ。自分を悪者にしても、恩を受けた三好家を守り、助けてくれた良縁の人々を助け、民を思い民を信じ、その正義を貫こうと思ったのだ。戦国の確執の二次元平面ではなく、時代を超えた異次元たる出世間の境地から戦国の黎明期を疾駆した。信長との共鳴盤が鳴らないわけがない。そんな松永弾正久秀が活写される。面白い。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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