sindo.jpg衝撃を与えた著作「AI vs.教科書が読めない子どもたち」から7年。「AIは神ではない」「シンギュラリティは到来しない」「AIは所詮計算機。数学の言語に置き換えることのできないことは計算できない」「数学が発見した論理、確率、統計に決定的に欠けていること、それは『意味』を記述する方法がないということだ」とAIの本質を指摘した。ところが合わせて驚愕の事実を明らかにした。「AIとともに働くことが不可避な2030年代以降の日本の中高生を調査すると、中高生の多くは、教科書を正確に理解する『読解力』を獲得していない」「(AIのできない)意味を獲得していない人間はAIに仕事を奪われてしまう」――。さらに新井紀子先生の凄いところは、中学生が読解力を獲得できるように「RS T (リーディングスキルテスト)」という世界にないプロジェクトに自ら乗り出し、全国展開をするなか着実に成果を上げてきたことだ。本書はこの7年以上の50万人のデータを踏まえるとともに、新たに現れたチャットGPTに対するより精緻な分析、さらにこの重要課題解決への具体的実践を示す圧倒的な著作だ。

「読解力」と言えば、「国語が大事」「若者にもっと読書を」と思われがちであった。そこから「一般的にイメージされている読解力とは、明確に区別するために『シン読解力』と名付けるようにした」と言う。「シン読解力は、いわゆる『読解力』とは異なり、教科書等の『知識や情報を伝達する目的で書かれた自己完結的な文書』を自力で読み解く力」を言う。それはスキルであり、トレーニングによって身に付けることができる。またこの「シン読解力」が学力と強い相関関係にあることが実証される。大事なことである。これがないと中学受験などで無理矢理暗記して例え合格しても、その後どこかで行き詰まると危惧している。

チャットGDPは、まさにチャット(対話型)、大規模言語モデル(GP T)の生成AIだ。すごい発展だが、平気でウソをつく(ハルシネーション、AIの幻覚)。実は「流暢に言葉を操る」ことを最大目標にしたもので「正しさ」を諦めざるを得なかった。

AIの学習には「教師あり学習」「強化学習」がある。政治AI、子育てAI、介護AI、家事AIなどは何を教師データにすれば良いのか、「教師データの不在」があり、「政治をAIに任せよう」とはならない。さらに問題はAIに潜む「外れ値の罠」。膨大な教師データで統計と確率で判断しているAIは、事故は絶対に起こしてはならない「自動運転」には難しい(東大は満点でなくても合格できるが)。要は「AIが人間のようになる必要はない。AIは、人間の役に立つ機械として進化すれば良い」のであり、「チャットGP Tを使いこなす人を育てる」が教育で大事になる。新井先生は「AI  vs .人間」ではなく、「人間× AI」であり、その前提として必要な能力が「シン読解力」と言う。

本書後半は、「シン読解力」を具体的に詳述する。「学校教育で『シン読解力』は伸びるのか?」――。義務教育段階では徐々に伸びるが、高校入学とともにピタリと止まると言う。学校教育によって「シン読解力」が向上しているとは言いがたいことがデータで現れている。

「『学習言語』を解剖する」――。「RSTの評価と学力との相関関係の強さを考えると、『生活言語』は獲得できたのに『学習言語』の習得に失敗した子がたくさんいる」「各教科には、それぞれ異なる学習言語があることを意識付けよう」・・・・・・。「『シン読解力』の土台を作る」――。「生活語彙が不足すると、学習言語の獲得に支障が出るので、学校で補う必要がある」「絵本の読み聞かせ、童謡を歌う、歌いながらお遊戯をするなど、体から語彙を獲得させるのはとても良い(小学3年生までに基本語彙1万語を身に付け辞書を引けるようにする)」「学校で今少なくなっている『視写』、もっと書く量を増やす」「認知負荷を科学的な『地道トレーニング』で下げる」・・・・・・。具体的にトレーニング方法を示し、全国の小学校で成果を上げている事例を紹介している。

AI、チャットGPTに翻弄される社会でなく、それを使いこなす社会。そのために「シン読解力」の具体的展開が、喫緊の課題となっている。危機感と熱意が伝わってくる研究、実践の素晴らしい著作。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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