帯に「森沢文学の真髄!心が静かに癒される、珠玉の家族小説」とあるが、全くその通り。いい話。
離婚し家族を捨てた父。不器用ながらまっすぐに生きた父。「あばら家。変わり果てた父の容貌。どう見ても粗衣粗食を思わせるのに、毎月、うちに送金してくれていたという事実。綺麗にしていた生垣。そして、あの裏庭----」。父を密かに思う息子と娘。心を閉ざす母----。家の壁に貼られた写真、半生をかけて植林した桜、そして一面に咲く紫花菜----。別れて30年、時を隔てて父の家族への愛を知って、心の澱が消えてゆくのだった。
東京の業界最大手の建設会社に勤める山川忠彦。趣味は釣りで週末を美しい自然の桑畑村で過ごすようになる。そこで知り合った檜山浩之と親友になり、村の人々は温かい。
ある日、浩之から電話があり桑畑村でリゾート開発が進んでおり、しかも進めているのが忠彦の建設会社だと言う。驚いた忠彦は桑畑村に向かうが、大変な事故に遭遇する。山が大暴落を起こしたのだ。その事故を目撃したショックで忠彦は失語症になり、精神状態も安定しなくなる。次第に夫婦の感情のすれ違い、亀裂が大きくなって離婚。家を出た忠彦は桑畑村へ行く。
そして30年――。檜山から連絡があり、忠彦が亡くなったと言う。揺れる家族の心・・・・・・。
不器用ながら、まっすぐに生きた男と、家族の絆を描いた感動作。