迷宮入りしていた少女誘拐事件から10年――。静岡県北の廃村で、少女の白骨遺体が見つかった。この事件、静岡県警は誘拐犯に紙袋に入った身代金1千万円を奪われ、少女は行方不明のままという大失態をしていた。しかも少女・正岡聡子ちゃんは腎臓に持病を抱え、移植を待ち続けるレシピエントだった。
被疑者もなく、全く手がかりもなかったこの事件――。突然の遺体発見に、静岡県警静岡中央署の日下悟警部補、水谷良司巡査が捜査に入る。なぜ10年間も遺体が廃屋の押し入れに手付かずで残されていたのか。事件はリピシエントに関係するのか。犯人はドナー出現を餌にして聡子ちゃんを家からおびき出したのか。犯行に複数が絡んでいるのではないか・・・・・・。「どんな違和感も見逃すな。事件を徹底的に洗い直すんだ」――小さな疑問や違和感を大切にして、捜査が粘り強く進められていく。
やがて、平成25年8月13日午前に誘拐事件が起き、8月14日午前に川に溺れた青年のドナーが現れた連絡があったこと、8月15日午後、廃村近くで、ある若者の運転する赤い軽自動車がトラックと正面衝突して死亡事故が発生していたこと、しかも聡子ちゃん誘拐の頃に自宅近くでそんな赤い軽自動車が目撃されていたことなどが明らかになる。さらに長い間待たされるレシピエントの順番が、切羽詰まった問題として浮上してくる。そして衝撃の結末を迎えていく。
被害者遺族の悲しみ、移植を待ち望む親の苦悩と葛藤、そして一歩一歩丹念に進む警察の執念――複雑極まりない事件と人間の愛憎の関係が描かれる。身体ごと持っていかれるような誘拐ミステリの傑作だ。「二人の誘拐者」の意味が最後にわかる。