「元彼の遺言状」「倒産続きの彼女」などの痛快謎解きと違って、「少年による犯罪をどう捉えるべきか」「罪を償うとはどういうことか」を問いかける「贖罪と復讐」の本格ミステリーだ。
殺人など重大な罪を犯して、少年院で出会った6人の少年。更生して社会に復帰した後、そのうちの一人(少年A)が、娘を殺された遺族(母親)に殺害される。少年法によって守られ、氏名や現住所等がわからないはずなのに、どうしてそれを探り当て殺害することができたのか。そもそも少年院の中では互いの名前も、犯罪内容も家庭環境も打ち明けることは禁じられているはずだが、やはり6人の中の一人(少年B)が裏切り密告したのではないか――。1人の女性・仮谷苑子が「密告者探し」の取材を始める。
少年Aを殺したのは、娘を殺された田村美雪。我が子を殺した少年Aに復讐をしたのだ。いくら15歳の少年だからといって、人を殺しておいて、少年院に1年3ヶ月入っただけで、許されるのはおかしい。死には死をもって償ってもらう。被害者遺族が加害者に復讐した稀有な例として「目には目を事件」と呼ばれるようになる。
少年院のこの6人――猟奇殺人や母親の刺殺、集団リンチまがいの少年殺人などに至っているが、いずれも家庭や学校に生きづらさを抱えた少年たちで、「本当は良い子」のよう。「密告者探し」の中で、少年たちの心の傷、苛立ち、渇きが浮かび上がってくる。さらにあまり知られていない少年院の実態が描かれる。そして、最後に驚愕の真相が・・・・・・。
復讐の殺人「目には目を事件」を探る中で、「罪を償うとはどういうことか」「贖罪と復讐」「少年犯罪と少年法」という重いテーマを抉り出す。結論の出ない難問だが、本書の結びには、共感するものがある。