「幸福に衰退する国の20年」が副題。2004年の著作「希望格差社会」から20年――。平成が終わり、令和になった現在、日本社会はどのように展開していくのか。社会の格差は、人々の希望は・・・・・・。
平成日本で起きた「4つの負のトレンド」を指摘する。「経済停滞」「男女共同参画の停滞(女性の活躍の立ち遅れは著しい)」「少子高齢化の進行」「格差社会の進行」だ。一方、ポジティブなトレンドもある。「より安全で安心できる社会へ」「マイノリティーへの理解の拡大――障がい者からLG BTQまで優しい社会へ」だ。平成日本は、経済は成長せず、収入は伸びず、結婚したくてもできない人が増え、格差が広がり、貧困率も上昇したが、驚くべきことに「生活満足度が上昇している」と言う。①衣食住②生きがい③地域の生活環境④人間関係――この4つすべてに満足していると回答した人は、「1988年に36%だったのが2018年には55%。特に若年、中年層で高くなっている」と言うのだ。一体なぜなのか、何が起きているのか。その謎を解くのが本書だ。
戦後の日本の格差の変遷――。戦後の昭和期は格差が縮小し、努力すれば、豊かな生活(中位の生活)を築くことができるという希望を持てた時期。平成期は、格差が拡大し「希望格差」が進行した時期。正規雇用に就けた男性(とその家族)は、努力すれば豊かな生活を築く希望はある。しかし非正規雇用の若者は、いくら努力しても豊かな生活を築く収入を得る見込みが持てない、将来の生活に希望が持てなくなる。これが希望格差社会だ。平成の時代の若者の行動様式は「就活」と「婚活」。これが努力しなくてはできなくなった時代だ。
令和期は「様々な格差が固定化する時代」と懸念する。就職氷河期の青年が30年経って、令和では50歳前後。非正規雇用が不安定なまま続き、パラサイト・シングルが中高年化し、中高年(40〜64歳)の引きこもりは2018年で61万人。50代中高年の独身者も男性276万人、女性239万人と大幅に増加している。一人暮らし独身者の孤立も問題となる。また若者に広がる新たな格差、「親ガチャ――太い親、細い親」や「非経済的教育格差」がある。令和期は「世代内でも世代間でも『格差』が本人の努力ではなかなか縮まらない状況が広がっている」のだ。
この令和の「格差の拡大・固定化」に、若者はどう対処するか? 本書は、「日本人はリアルな世界で格差を乗り越えることを諦めて、『バーチャルな世界』で格差を埋める方向に進んでいる」と考察する。一生懸命働いても認められないし、将来性もない。そこで「パチンコ」「ネットゲーム」「ペット(疑似家族)」「スターやアイドルなどの『推し』(疑似恋愛)」「キャバクラやホストなどの癒し」「『収集』マニアやオタク」・・・・・・。バーチャルな世界で希望を見つけようとする人が増大していると分析する。現実生活に希望を見出せない人が、バーチャルな世界で満足を得ようとしていると言うのだ。バーチャル世界に意識を向けさえすれば、平等で希望に溢れた世界を体験することができる。「ネット空間」「いいね」もそういうことか。経済的に行き詰まりを見せ、格差が固定化しているのに、「格差拡大の被害を最も受けているはずの若者の幸福度が上昇している」という秘密はそこにあると言うのだ。
現状を大きく変えるような変革を望まず、「バーチャル世界」で格差を埋める人々が急増しているわけで、昨年来の選挙もまたそうした「バーチャル世界の楽しみ方」の奔流の中にあると思うと吐息が漏れる。良い悪いではなく、あまりにも生々しい現実を150キロ以上の直球で突きつけられた思いだ。