1777602709072.jpg人間を変える、人生を変える、認知を変えるという作業がいかに難事業であるかを思い知る。自己と世界の環境を整えて生存を確保し、さらに実存への「冒険の旅」に乗り出す――。専門家でしかできない道筋が開示される。

「変化するということ」が副題。生活が危機に陥るとき、人生が行き詰まるとき、人はカウンセリングを訪れる。そこで話し合いがなされ、生活は変わり、人生が変化する。その「カウンセリングとは何か。原理を示し、その全体像を描く」――。何によって、いかなるプロセスを通じて心の変化をもたらすのか。実例を示しつつ、実に丁寧に原理と実践が示される。目の前が開かれ感動した。素晴らしい著作。

「カウンセリングとは、心の問題で苦しんでいる人に対して、心理学的に理解して、それに即して、必要な心理学的な介入を行う専門的な営みである」「カウンセリングとは、心の非常時を扱うテクノロジーである」――。

「自己ー心ー世界モデル」――。「『自己』とは自分の中の思い通りにならないもの、コントロールできないもの(身体、トラウマ記憶、衝動・無意識など)」。「『世界』というのは物理的外界とか、社会とか、他者など自分の外側にある環境」を言う。その上で「『心』とは、自己と世界の中間にあり、その間を調整する装置」。カウンセラーの重要な仕事は、自己と世界にまずは適切な対処をする(自己の脳の神経科学的バランスがおかしければ医療や投薬をする) (職場の労働環境が過酷すぎるならば勤務体制を変更させる)、その上でどうにもならない時に、心の出番がやってくるのが原則だ、と問題整理の重要性を指摘する。「なぜこの問題が起きていて、いかにすれば改善するか。カウンセリングの中核にあるのはアセスメントである。心が変化するための土台になるのは『理解』、理解することの力」と言う。

生活と人生----。「心には生活と人生という2つの次元があり、カウンセリングにはこの両方の苦悩が持ち込まれる」――。

生活は物理的で身体的で経済的。「『作戦会議としてのカウンセリング』は、生活を立て直し、生存を確保するためにある。現実を動かすために、作戦会議はあり、生活の破局度が高い人に向けて行われる」ことがが示される。まず身体----医療、休養、運動と生活リズムを共に考え進める。お金の不安は根源的で、経済的な見通しがなくなるとき、人は深く脅かされる。その支援を共に考え動く。「世界を動かす」――職場の環境を変え、ケアを増量するなど・・・・・・。「破局を生き延びる」ことの重要性、生活の再建、生存を可能にする変化をもたらすことだ。

次に、「冒険としてのカウンセリング」だ。目の前の問題は解決し、生活は成り立っているが、いよいよ本当の問題が残る。それは「実存の問題」「人生の問題」だ。日本社会は、70年代から90年代、経済的に豊かで比較的安定、生存がある程度保障され、「心の時代」が求められた。しかし2000年代以降、経済の停滞や格差の拡大によって、人々の生存は脅かされやすくなった。心を取り巻く日本社会の状況は、「実存から生存へ」へ変わったと指摘する。何か逆流のような気がするが、実際に現在、「作戦会議としてのカウンセリング」が主流になっていると言う。

しかし、「実存は生存を前提としている」「生存は時に実存を犠牲にする」のであり、「生活を守ることで人生が死んでしまうことがある」のであり、人生が死んでしまったではどうしようもないのだ。

そこで、「冒険としてのカウンセリング」が登場する。それは、「心を動揺させる。生き延びるために硬化していた鎧を揺り動かす。そうすることで、よく見えなくなっていた自分の中を冒険し、生きてこなかった自分に出会っていく。心の部分を生き直す。実存的な問いに取り組むことになる」・・・・・・

ここで、実例として「ハルカさんの冒険(①インテーク面接篇生育歴インタビュー篇契約面接篇晴れの船出 最初の3ヶ月、2年目まで、3年目、その後)が示され、母親との関係の根深い問題が剔抉されていく。粘りと我慢の長時間。凄まじい粘り強い専門のカウンセリングによって、心の深い部分が変化していくことが示される。プロでなければできない聞き続ける、対話し続ける専門家の姿勢に驚嘆する。「古い物語を終わらせ、新しい物語を始める」ために心を揺らす。破局しないように高度に防衛されているユーザーの心を揺らし、意図的に破局を持ち込もうという高度なカウンセラーの専門技だ。

カウンセリングの「終わり」の難しさも伝わってくる。「僕がカウンセリングの中核に見出したのは『破局を生き延びること』である」「いかに生きるかは、いかに生き延びるかを通じて変化していく。ですから生存と実存、生活と人生は絡み合っている。これがカウンセリングから見える人間が生きることです」と言う。そして、「人間は物語の不在に耐えられない。その時、『個人』という小さな文学は、踏みにじられやすくなる」「心の変化には、科学的な次元もあるし、文学的な次元もある。この両方を生きるのが、人間である」と結んでいる。

そして勇気----。「ここに、時々勇気が現れる。・・・・・・彼を動かしていたのは勇気です。突如、運命に対して受動的であった人間が能動性を発揮し始めている。勇気は、人を個人にする。勇気は周囲の人に元気をもたらす。勇気は不思議です」と言っている。確かにそうだ。素晴らしい著作に出会った。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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