アドラーに学ぶ よく生きるために働くということ.jpg「働く」ということは人間の本質に迫る問題だ。「働くことは生きるということと同義である」「人はよく生きることを願っているのであり、働くのもただ生存するためではなく、よく生きるためであるというのが、『生きるために働く』ということの意味だ」「アドラーは人生には取り組まなければならない『仕事の課題』『交友の課題』『愛の課題』という三つの『人生の課題』があるという」――。

「人は何のために働くのか。働くことで人は自分の持っている能力を他者のために使い他者に貢献する。他者に貢献すれば貢献感を持つことができ、そのことで自分に価値があると思える。自分に価値があると思えれば、対人関係の中に入っていく勇気を持つことができる。対人関係の中においてこそ、生きる喜びを持ち、幸せになることができる」という。そしてアドラーは「勇気は伝染する。臆病も伝染する」という。こうして「仕事の課題」は、他者との協力、結びつきの「交友の課題」を解決することになり、「愛の課題」の解決になる。エーリッヒ・フロムは「愛の本質は、何かのために"働く"こと、"何かを育てる"ことにある。愛と労働とは分かちがたいものである」といっている。アドラーは「他者を喜ばせることを始めたら『自分が役に立ち、価値があると感じられるように』なる」ともいう。

「働くことの意味」を岸見さんは、自身の人生を率直に語りつつ、考察、提示している。


官賊と幕臣たち.jpg「列強の日本侵略を防いだ徳川テクノクラート」が副題だ。江戸幕府、一口に「鎖国」といわれるがそうではない。欧米列強が虎視眈々と侵略を狙う世界の動きをまず示される。宣教師たちの目的、江戸幕府成立以前からのポルトガルとスペイン。それを追うかのごときオランダの対日貿易独占戦略。旧教国対新教国という図式でのスペイン・ポルトガル対オランダ・イギリスの対立。切支丹禁令。そして西へ西へと進み、太平洋を渡って迫るアメリカ。インド、中国から日本を窺うイギリス。密貿易の国・薩摩を背後で支援したイギリス・死の商人グラバーの暗躍・・・・・・。薩長同盟なるものの矛盾を突き、坂本龍馬にいたっては、武器あっせん商人の手先とこきおろしている。

そのなかで幕府の対外協調路線を描く。欧米列強の侵略を防ぎえたのは、徳川の幕臣テクノクラートだという。「阿部正弘、堀田正睦、井伊直弼政権が敢然と対外協調路線に踏み切り、川路聖謨、水野忠徳、岩瀬忠震、井上清直、小栗忠順といった英傑といってもいい優秀な徳川幕臣テクノクラートが欧米列強と正面から渡り合い・・・・・・」「この足を引っ張ったのが"復古!復古!"と喚いて、"尊王攘夷"というスローガンだけで徳川政権から積年の悲願として政権奪取を図った、いわゆる勤皇勢力、尊王攘夷派、即ち薩摩・長州勢力である」という。テロリストといっている。薩長史観を迫力をもって打砕いている。司馬史観をも。「明治維新という過ち~日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト~」に続く第2弾の書。


活版印刷三日月堂.jpg川越にある昔ながらの活版印刷「三日月堂」に弓子が数年ぶりに戻る。川越運送店一番街営業所長の市倉ハルは息子・森太郎を北海道大学に送り出す。一番街のはずれで「桐一葉」(高浜虚子の「桐一葉日当りながら落ちにけり」)という珈琲店を経営する岡野。川越にある私立高校の国語教師・遠田と文芸部の村崎小枝、山口侑加。遠田と桐林泉。そして婚約する友明と雪乃。こうした登場人物はいずれも心の底に悩みをかかえながらもいい関係を結ぶ。

味わいのある活版印刷が1人1人を結び、互いの誤解を解き、生老病死の悲しみと温かい人間関係のなかで、「自分自身に生きる」喜びを見つけていくことになる。じっくりと生きる意味を問いかけていく。感動作。


貧困世代.jpgブラック企業、ブラックバイト、子どもの貧困、貧困女子・・・・・・。「現代の若者たちは一過性の困難に直面しているばかりではなく、その後も続く生活の様々な困難さや貧困を抱え続けてしまっている世代である。彼らは自力ではもはや避けようがない。日本社会から強いられた貧困に直面している」「貧困世代とは、概ね10代から30代を想定し、貧困であることを一生涯宿命づけられた人々である」という。

大人はこうした現在の若者の"しんどい"状況を正視し、総合的かつ具体的に支援をさしのべよ、という。5つの若者論の誤り――「働けば収入が得られるという神話(労働万能説)」「家族が助けてくれているという神話(家族扶養説)」「元気で健康であるという神話(青年健康説)」「昔はもっと大変だったという時代錯誤的神話(時代比較説)」「若いうちは努力をするべきで、それは一時的な苦労だという神話(努力至上主義説)」と上げている。デフレと雇用環境が大きいと思うが、「ブラックバイト」「奨学金問題」「住宅問題」等々にもふれている。


真実の10メートル手前.jpg米澤ミステリーの傑作「王とサーカス」は、フリーのジャーナリストの太刀洗万智が、記者に内在する「知る」「伝える」ということの宿命的苦悩を抱えつつ真正直に突き進む姿勢に心の共鳴盤が震えた。

本書はいずれも、その太刀洗万智が、苦悩を抱きつつ事件の真相に迫っていく6編。それぞれ全く異なった事件、異なる切り口、よくぞここまでと感心する。「真実の10メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」――。太刀洗万智は浅薄なジャーナリズムに流されることを厳に戒めつつ、全く違った角度で事件に、被害者に、加害者のひきずる苦悩に、迫っていく。

太刀洗万智も作品も魅力的。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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