水壁 高橋克彦著 PHP研究所.jpg9世紀後半の東北、蝦夷(えみし)の地――。相次ぐ飢饉、中央政権の圧政、出羽等の苛政、俘囚への非道、民の塗炭の苦しみ・・・・・・。蔑まれた蝦夷の懊悩に同苦した東北の英雄・アテルイの血をひく天日子、軍師・幻水、真鹿、逆鉾丸、玉姫、弓狩、そして隼人・鷹人の兄弟ら若者が立つ。

米代川を水壁として、蝦夷と朝廷側との境界線を定めるに至る若者たちの純粋で熱き闘いが、9世紀の東北の大地で諦観を破る。


遠縁の女  青山文平著.jpg「遠縁の女」と「機織る武家」「沼尻新田」の三篇。

いずれも貧しい武家、言葉少なに息の詰まるような生活と人間関係。江戸時代の武家の貧しさと心の中の寂寥感は、現在のような自由な言語空間がないゆえに迫りくるものがある。そのなかで我慢を強いられて生きる女性の心象風景がもの悲しく響く。危ない女、芯強き女、清楚な女。

三篇とも、人は心の中に引っかかる何かを抜けないまま生きるものだということを思わせる。「遠縁の女」は、5年の武者修行から帰国した男を待っていた衝撃の事実と女の仕掛け。「機織る武家」は血の繋がらない3人が暮らす貧しい武家で、後妻が機織りを始める。「沼尻新田」は、新田開発を持ちかけられた当主の当惑と喜び。


51pDUceLZvL._SX310_BO1,204,203,200_.jpg保活――。妊娠中から保育所に入れるかどうかに一喜一憂、「保育所に入れるか」「働き続けられるか」という不安を抱えて、書類を整え、見学をし、併願で労力は数倍となる。ゼロ歳から入らないと、育児休業後の見通しが立たない。認可保育所(213万人)、小規模保育や事業所内保育などの地域型保育、そして東京都の認証保育所など認可外保育事業(約20万人)。また幼稚園(134万人)、認定子ども園(32万人)・・・・・・。保育所はかなりふえているが、0~2歳児は待機児童も多く、とくに0歳児保育で保育士不足が深刻化する。副題に「待機児童、保育士不足、建設反対運動」とあるように、問題は複合し、入り組んでいる。

少子化が進展するなかで、保育所は親が働くのを支えるだけではなく、子どもの健やかな育ちを支える場所である。孤独な母親、子育ての不安感が増すなかで、保育所は子育て支援の大事な拠点でもある。保育所の充実・強化策は緊要だが、大人全体の働き方改革自体が重要となる。働きながら子どもを産み育てることが可能となる社会――本書は横浜市副市長としての経験も踏まえ、専門的見地から問題を解き明かしてくれる。そして「待機児童解消へ、8つの提言」をしている。


61k0sAYNArL._SX345_BO1,204,203,200_.jpgここ3年の6つの短篇集だが、いずれもテーマ、中身、心象の変化ときわめて深く心に浸み入る。

「出会いなおし」――。自分自身への自信を損なって、プロになりきれない苛立ちを募らせていた若き女性イラストレーター・佐和田。向上心は強い。そこに出版のパートナーとなるナリキヨさんが、人生の節目に現われる。出会い、別れ、再会、別れ、――。

年をとること、それは「同じ相手に何回も出会い直すということだ。会うたびに知らない顔を見せ、人は立体的になる」――。それが人生の面白いところ。

一転して「カブとセロリの塩昆布サラダ」――。働く女性主婦・清美が、デパ地下で買ったサラダ。何とそのカブがダイコンであったことのクレームと店員の反応、主人の反応・・・・・・。姿が鮮やかに浮かぶ。

「ママ」――。夫の嘘に家を飛び出した妻。悲しみには二つのタイプがある。「重たいかなしみは、じきになれる。やっかいなのは、からっぽのほう。・・・・・・こじらすとよくないことになる」。きわめて印象的な作品。

「むすびめ」――。小学6年で30人31脚で失敗した女性が、15年もトラウマをかかえて同窓会に出る。そこで知った真実・・・・・・。ミステリーのドンデン返しのような結末だが、もっと心に余韻が響く。

「テールライト」――。切迫感ある4つの話。「どうか、どうか、どうか――」。願いで締めくくられる。

「青空」――。朝、目覚めてすぐに思うこと。亡くなった妻が、親子を守る。

6つの短篇、全く異なる自在なる作風に驚き、感動する。


51cCwBRNjUL._SX301_BO1,204,203,200_.jpgベンチャー企業とイノベーション――。アメリカを真似て金融制度や企業統治の構造改革を進めてきた日本は、だから停滞しているのではないかと、鋭角的にズバズバ語る。経営論であるとともに、背景として戦後日本の近代化思想論が横たわっていることを指摘する。

「アメリカの開業率は1970年代末と比べて半減している。この40年間、生産性の伸びは停滞している。そして企業の短期主義化が進み、画期的なイノベーションは起きにくくなっている」「日本はイノベーションを起きにくくし、開業率を下げたアメリカの1980年代以降の政策を次々と模倣してきた。いくら構造改革をしても日本で起業が増えず、経済が活性化しないのも当然」という。「アメリカはベンチャー企業の天国ではない。開業率はこの30年間で半減。1990年代は、IT革命にもかかわらず30歳以下の起業家の比率は低下ないし停滞している」「シリコンバレーは軍事産業の集積地。アメリカのハイテク・ベンチャー企業を育てたのは、もっぱら政府の強力な軍事産業育成政策だ」「イノベーションは、そのための資源動員を正当化する理由が必要であり、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係から生まれる」「アメリカの1980年代以降の新自由主義的な金融化やグローバル化は、企業の短期主義を助長し、長期的な研究開発投資を忌避し、画期的なイノベーションを生み出さなくなった」「オープン・イノベーションは、企業の短期主義の結果であり、イノベーションを阻害する」「アメリカを模範としたコーポレート・ガバナンス改革を続けた日本は、アメリカ同様、長期の停滞に陥っている」「一般に流布しているベンチャー企業論は、戦後復興期に丸山真男、大塚久雄、川島武宜、桑原武夫などの知識人が広めた"近代化論"の焼き直し」――。

「日本思想史新論」「官僚の反逆」「TPP亡国論」「世界を戦争に導くグローバリズム」などの著書と同様、本質的で鋭角的で激しい。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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