i.jpg世界の戦乱・事件・災害等の生死を背景に、人間の実存と存在に迫り、問い続ける希有の作品。主人公のアイはシリアで生まれ、子どものいないアメリカ人のダニエルと日本人の綾子夫妻の養子となり、日本で何不自由なく暮らす。しかし、恵まれた環境に育つなかで、「なぜ私が?」「世界で起きる不幸のなか、自分のみ免れ、幸せでいいのか」「他の幸せを奪っているのではないか」「血のつながりのない自分のアイデンティティーへの不安」「恵まれていることへの罪悪感」に常に襲われる。そして高校1年生の数学の授業で教師の放った「この世界にアイは存在しません。」の一言がずっと心に突き刺さる。アイは自身の名であり、「私」であり、「愛」であり、「数学の"虚数"(実在しない数)(i×i=-1)」でもある。考え抜かれた題名自体に驚く。

アイは世界の戦乱・事件、9・11テロ、東日本大震災、自身に関係するシリアやハイチの危機に敏感に反応し、自身の宿命、存在、アイデンティティー、そして血縁、家族、愛を考え続ける。ピュアな妥協なき求道ともとれる追求の姿に引き込まれる。そして生老病死の追求とアイデンティティー崩落の危機を、アイを全的に肯定する家族・友人の心と愛情によって救い出される。「この世界にアイは、存在する。」「世界には間違いなく、アイが存在する」「私はここにいてもいい存在、いなくてはいけない存在だ」とベクトルを健やかに反転させていく。


kokudo_cover.jpg「地方再生に挑戦する人々」と副題にあるように、全国各地で防災・減災や地域の活性化に頑張っている建設業や政治家の現場の姿を、くっきりと紹介している。

「『稲むらの火』と国土強靭化」では二階自民党幹事長のこの数年の仕事、防災・減災・国土強靭化がいかに大事か。雨の降り方が変化し、巨大地震に見舞われた「災害列島・日本」にどう対応するか。大都市で、地方で、離島で格闘する人々。「世のため人のためにつくせ」との精神で「公共事業悪玉論」を振り払いながら黙々と志をもって取り組む人々。インフラのストック効果を凝視して日本の経済成長を支え、推進する人々。

「技術はうそをつかない」「B/Cという考え方は都市部ほど有利に働くのではないか」「熊本城復興のために"国民の一人一枚瓦寄付"運動」「電気商会の"24時間365日いつでも飛んでいきます"のキャッチフレーズ」「下水道のSPR工法の衝撃」・・・・・・。「国民・政府・自治体の皆さん、建設業の現場の声を聴いてください!」とまで現場の声を伝えてくれている。


女のいない男たち.jpg「ライブ・マイ・カー」「イエスタディ」「独立器官」「シェエラザード」「木野」「女のいない男たち」の6つの短編集。

いずれも女性を失った男たちを描く。男女のつながりの現実と推測、観察と夢想が、静かに淡々と描かれる。登場人物はいずれもキャラが立っているが、喪失感、寂寥感、他人ではどうしようもない孤独、沈黙と思い出、女の嘘と男の思い込み願望・・・・・・。観察眼の確かさと柔らかさが伝わって、いずれも面白い。

人生には色彩があるが、それが消えた時の絶望と孤独をかみしめすぎると人は死ぬ。それゆえに人生で出会う全ての存在の大きさ、大切さが浮き彫りにされる。


天子蒙塵一.jpg「蒼穹の昴」「珍妃の井戸」「中原の虹」「マンチュリアン・リポート」に続く第5部「天子蒙塵」の第一巻。待望の書だ。天子蒙塵とは「天子が塵をかぶって逃げ出す」こと。

張作霖爆破事件をはさみ、宣統帝溥儀と皇后・婉容、淑妃・文繡、そしてその側近たち、更には張学良らが何を思い、どう動いたか。溥儀と文繡の離婚劇の真相から、日本がかかわった天津から満洲建国への道のりを、文繡姉妹の静かな語りによって描いている。

巨大な時代の荒波に吞み込まれながらも、自由をめざした女性の物語でもあり、同じ荒波のなかで大清の復辟を秘めつつも楽園的日常に浸るラストエンペラー・溥儀の姿など、悲哀が滲む。1930年代の中国大陸への序章がこの第1巻だ。


プリズンブッククラブ.jpg「わたしは、老眼鏡をはずし、フランクの日記帳を脇のテーブルに置いた。この世界には、なんとさまざまな囚われびとがいることだろう。監獄の囚人、宗教の囚人、暴力の囚人。かつての私のような恐怖の囚人もいる。ただし、読書会への参加を重ねるたびに、その恐怖からも徐々に解放されてきた」――。

副題に「コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年」とあるが、2011年から12年にかけて、2か所の刑務所読書会を友人のキャロル・フィンレイに誘われて務めたアン・ウォームズリーが、受刑者の生の声を交えて、小説風にまとめたもの。トロント在住。イギリスで強盗に襲われ命を落としかけたという傷が常に心奥にある。

選ばれた本はかなり深く、生々しい現実と格闘するものが多い。「ガーンジー島の読書会」「怒りの葡萄」「またの名をグレイス」「ユダヤ人を救った動物園」「第三帝国の愛人」「サラエボのチェリスト」・・・・・・。欧米社会に沈潜する戦争、分断、差別、虐待、銃、暴力、テロ。脅威、迫害、強迫観念。宗教や人種の対立・・・・・・。日本の自然、人間との融和社会との差異はあるが、世界共通の人間社会の亀裂を、受刑者たちが読書を通じて考え、重い口を開いていく。人生のギリギリを生きている人たちだけに、切実な思いとリアリズムが詰まっていると感ずる。

「うしろを振り向かず、将来のことも考えない。とにかく今日一日を生きなさい」「人生がちょっとばかりつらくても、おれたちは日々の暮らしを続けるだけだ」――。希望を捨て去って、絶望のなかに生を見る。読書に選ばれた最近の本を読んでないのに悔しい思いがした。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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