「インテリジェンス・勢力圏・経済安全保障の地政学」が副題。総理秘書官、内閣情報官、国家安全保障局長として、安全保障・危機管理等を担ってきた北村さんの、激変する世界の現実を直視し徹底分析した危機感溢れる書。軸が極めてクリア。
「見えない戦争」と「縁辺部(リムランド)における紛争の時代」が急速に進展、それが現実に噴き出しているのが今の世界。ロシアのウクライナ侵略、イスラエル・ハマスの戦闘、ベネズエラ急襲、イラン戦争、トランプ2.0、米中対立、サイバー攻撃・・・・・・。
「見えない戦争」――。「勢力圏」を支配する真の力は見えない領域で急進展している。宇宙、サイバー、海中、情報、経済・・・・・・。ロシアのウクライナ侵略、ベネズエラ急襲、イスラエル・ハマスの戦闘、イラン戦争など、戦争が始まる前にいかに情報戦、電磁戦、サイバー戦が展開されたかが具体的に示される。情報優勢の確保こそ抑止と防衛の要諦とする衝撃の事実だ。「インテリジェンスが戦争を決める」「平時からの浸透工作とサプライチェーン・インテリジェンス」「HUMINTとサイバーの融合による超精密ターゲティング」など、勝敗の分水嶺が開戦前にあることが例示される。そして日本は、「『経済安全保障』を単なる経済政策でなく、防衛力そのものとして再定義する(特にサプライチェーンにおけるチョークポイントの確保)」「能動的サイバー防御の法的・技術的基盤の実装」「日米同盟における指揮統制の高度化」が急務であることを明示する。
なお、これらの事態に対し、ハマスが、「『ローテク』と『地下』(山手線内の面積の6倍のガザ地区に総延長300〜500キロメートルのトンネル)で対抗した」と言う。ガザ・メトロだが、逆にそれだけインテリジェンス戦争が進んでいることを浮き彫りにしている。
「リムランドにおける紛争の時代」――。インテリジェンスによる「見えない戦争」の優位は、国家自体の生存空間である勢力圏の確保へと進む。「勢力圏思想の復活」「縁辺部(リムランド)重視のスパイクマン的リアリズムへの回帰」「それゆえ日本、台湾海峡、南シナ海、中東は、ユーラシア大陸のハートランド勢力と対峙するリムランドの最前線に位置する」が導かれる。それがトランプのNSS2025であり、それは「西半球の防衛が第一義」「中国やロシアなどユーラシア大陸のハートランドに位置する競合国が米国の絶対的勢力圏である中南米に浸透することを許さない」「グリーンランドの戦略的価値と米国の勢力圏構想」となっていると指摘する。それがトランプ2.0であり、「国益追求のために手段を選ばず、同盟国にも『結果』を求めるシビアなパートナー」であると言う。米国は「従来の理想的な建前を捨て、西半球という『絶対的勢力圏』を基盤としてユーラシア大陸の縁辺部リムランドをコントロールする『排他的勢力圏の確立』へと回帰した」のだ。イエール大学のニコラス・スパイクマンの「リムランド」の考えだ。米国は孤立主義ではなく、「いかなるハートランド勢力(かつてのナチスドイツやソ連、現在の中国・ロシア)にもリムランドを独占的に支配させない」として、ユーラシア大陸の縁辺部分で食い止める生存戦略に立っていると言うのだ。
日本は「戦後長らく続いた経済と安全保障を切り離して考える思考停止から脱却し、両者を統合した国家戦略を持つ『戦略国家』へと脱皮すること。それこそがリアリズムの時代において日本の国を守り抜く唯一の道である」と言っている。そして現在、ユーラシアの逆襲と中国の絶対的勢力圏思想(中華)がぶつかり、そこに安倍総理の「FOIP」「QUAD」があると言う。
そして現代は、リムランドをめぐる地理的勢力圏の攻防とともに、技術・データを巡る非地理的勢力圏の覇権争いが複雑に交錯する時代となっている。厳しい安全保障環境のなか、有事と平時の境界は曖昧となり、安全保障の主体は国家から民間へと拡大している。世界経済は「グローバリゼーションの終焉からデリスキング(企業は未曾有の情報リスクにさらされる)の時代」「地政学では山脈、海洋、平原だけでなく、先端技術、サプライチェーン等が新たな地形」となる。企業には、技術保全、サプライチェーン、人的リスク回避など自己変革が求められる。「グリーン経済安全保障を脱中国依存で進めよう」「日本の外貨規制は甘すぎる」「経済安全保障とM&A」「コンビニなどは既に日本の社会インフラ」「外為法の限界、一本足打法では守れない」「ステークホルダーとしての『国家』」「日本版CF I US」など局面の変わったなかでの課題と諸改革を示す。
「テクノロジーと主権----決定の自律性」――。「モバイル・エコシステムをめぐる国家の攻防」「サイバー戦の潜在的ループホールとしてのスマートフォン」「企業はAIで守るしかないーーアサヒG H Dが受けたサイバー攻撃」「『先制防御』という意思決定の哲学(リスク回避ではなく能動的リスク経営)」「戦闘機などが筋肉とすれば、神経系と脳になるのはサイバー空間とAI」・・・・・・。AIを巡り各国は熾烈な競争のなかにある。日本として「AI時代の主権もまた、特定領域での非代替的かつ不可欠な存在感によって裏打ちされるべき」。そして「主権の核心は『決定の自律性』にある。国家の判断基盤を、いかに守り、いかに鍛え直すか。その課題への取り組みが、今後の日本の針路を規定するのである」と言っている。
日本はリムランドの最前線という地政学的位置にあり、非地理的勢力圏において先端技術でもサプライチェーンでも不可欠な重要な地位にある。日本は今どこに位置しているのか、そしてどう生き抜くのか――。本書はそれを明示している。
プロフィール
太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。
93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。
現在、党常任顧問。
