政治家の劣化がいわれ、倫理的資質の低下、哲学の欠如が指摘される。哲学不在は政治家のみではなく、社会そのものの浅さでもある。メディア社会も選挙制度の問題もある。
孔子、孟子、荀子、そしてソクラテス、プラトン、アリストテレス、そして内村鑑三の「代表的日本人」でも紹介されている西郷隆盛、上杉鷹山、日蓮の言葉など。さらにゲーテ、カーライル、セネカ、シラー、ルソーなどの123の政治に関する格言・名言。
森田実さんが、自らの言として心にとどめ、政治評論活動のなかで、指摘してきたものだ。
「一隅を照らす」「政の興る所は民の心に従うに在り」「上善は水の如し」――など、森田実さんの姿勢自体に感動をおぼえる。
政治家必読の著。
「炎立つ」「火怨」「天を衝く」の高橋克彦の「完四郎広目手控シリーズ」の「不惑剣」。ホラー、ミステリー、時代小説など高橋作品は幅広いが、今回のは明治初期の広目(今でいえば広報・広告・メディア)の世界に身を置く完四郎たちから描いた小説。
明治維新後の変革期、不安定な時代。新政府に抵抗し、死に場所を求める元士族――。熊本で決起する神風達を止めようとした完四郎は逆に心をひかれ、己を省みる。
「こういう美しき者たちを・・・・・新政府はなぜに死に追いやる」
「こういう者たちが喜んで生きて行かれる国こそ本当の新しき国ではないのか」
「おれよりも偉い。・・・・・・惑わぬ心で剣を持つのは・・・・・・」
「戦が何を生む。・・・・・・大久保はまだ足りぬというのか! 西郷は不足だと言うのか! この国の大義はどこにある!」
――掴み所のない国に向けての怒り、そして底の抜け崩落感のなかにある自分自身の生に対して、「おれは・・・・・・どうすればいい」やり場のない時代が描かれている。しかし戦いはまだ続き、明治は走り出している。そんな時代のはらむ苦悩がにじみ出ている。
この"一億総うつ病化社会"。
「上司に怒られる。怒られてばかり」「トラブルが続く。心に余裕がなくなる。心が限界になるほど疲れる」――そんな時どうする。「抑うつ状態は強い悲しみや不安、失望感のため、すべてに興味がなくなり、無気力になる精神状態」だが、さてどうする。
人には思考のクセがある。考え方を変える、思考グセを変えない限り、いくら薬を飲んでも治らない。ニーチェは「この世に絶対的な真実などはない、あるのは解釈だ」といっている。その通り、事象をどう解釈するかだ。
意外とわからない自分のこと――それを整理してみたらどうか。
精神科医の田中さんは心に溜まったストレスと上手に付き合う方法を示す。治ってもそれは「治癒」ではなく、「寛解」(病気の症状がほとんどなくなったが、完全に治癒したわけではない状態)。再発・長期化させないよう発想を変えることだ。
早めに対応。しかし焦りは禁物。田中さんは「心のストレス超整理術」を具体的に示してくれる。
見える世界、有限の世界、経済における労働価値説、効用価値説などに閉じ込められた世界を、「宗教とは何か」「生産とは何か」「労働とは何か」といった現象の背後にある不可視の摂理の世界、無限の世界から見る。「労働と報酬が正確に数値的に相関したら、人間は働きませんよ」として、「贈与」というキーワードを提示する。予見できない報酬、報恩、感謝、使命、そこに噴出する歓喜。それを生み出す師弟、さらに農業の根っこには贈与がある(恵み)――二人の対談は次々と展開し、飛ぶ。
また、「東洋的な学びがめざしているのは『正解』ではなく『成熟』と思う。正解は即答を理想とするが、成熟は回答を求めない。長い時間をかけて、自分が置かれている文脈が変わり、自分のからだも変わり、それまで見えていたものが見えなくなり・・・・・・。その変化を思い知ることが知的な成熟という東洋的な考え方」などとも語る。
内田樹さんの近著「呪いの時代」も柔らかで刺激的だ。現代ネット社会は記号的に、抽象的に自己肥大化と自尊感情をもつ人間を異常増殖させ、破壊行動をもつ、他者を傷つける人間が英雄視される。
「適切な自己評価を受け容れること。妄想的に構築された『ほんとうの私』に主体の座を明け渡さず、生身の具体的な生活のうちに深く捉えられた、あまりパッとしない『正味の自分』をこそ主体としてあくまで維持し続けること」が喫緊の議題だと指摘している。「荒ぶる神・原発」を鎮める、金だけですべての人間が動くわけではない――など、3・11以後両著の主張は当然ながら重なる。
デフレ下で閉塞感漂う日本。あきらめるばかりか、いやそれが課題先進国・日本だなどという者まで出てくる。今の時点でいうならば、敗北主義である。
国家の経営やマクロ経済では、大きく俯瞰して物事を見て手を打つ、それも重要。しかし、各分野、各団体、各企業において「あれをやれば...」ということは多い。突破できるのに決めることができず、前へ進むということができない。それが閉塞感を絶望に変える。
江口さんは反撃を試みる。かねてからの「地域主権型道州制」はその柱だ。そして、「贈与税・相続税を非課税にして若年層に資産移転を」などの税制。「切符一枚につき10円を加算して各駅に保育所を。学校バウチャー制度、医療や介護の規制緩和」などの暮らしの安心。「必要な道路の建設や基地島の建設を」などの社会インフラの再構築――こうしたきわめて具体的な15の政策提案をする。めざすは「富国有徳国家」であり、成長戦略だ。随所に、現民主義政権の迷走ぶり、政策の誤りの指摘がされている。視野は全方位にわたっているし、意欲が伝わってくる。