「わが精神形成と人間教育の道」が副題。心理学者の梶田叡一先生が、これまでの自身の精神形成が心理学や教育の先人たちとの思想交流の中から形成されてきたことを率直に語る。その人間形成、精神形成への真剣で誠実な姿勢が心に響いてくる。
京都の学生時代から始まる思想形成。ラジカルな左派政治闘争のなか、コリン・ウィルソンの「アウトサイダー」、サルトルやカミュなどのフランス実存主義哲学、キリスト教・仏教などの宗教哲学を経て、カール・ロジャーズ、G・ W・オルポートなど人間存在を深める心理学の道に突き進んでいく過程が語られる。「私は心理学者であり、人間学の研究者」と言う。そして、ベンジャミン・ブルームとの出会いのなかで「心理学、人間学の一環としての教育研究」が始まったと述べる。
梶田先生には21世紀の教育を考える肝いりの「教育改革国民会議」や中央教育審議会にも参画をいただき、教育基本法改正にも重要な提言をいただいた。「教育は人格の完成を目指す」「『人間としての尊厳』を具体化していく教育を」「『社会のための教育』ではなく、『教育のための社会』に」「教育者の力が重要」と言う。「教育の深さが日本の未来を決定する」と考える公明党の主張そのものであり、多大なアドバイスをいただき続けてきた。
人間形成の最終原点は「生きる力」だ。その「生きる力」には、「我の世界」を生きる力と「我々の世界」を生きる力のニつがあると指摘する。自身を鍛え、育み、豊かな情操と教養を持つとともに、世の中に出てきちんと生き、自分の人生を豊かにするニつの力だ。ではどう育てるのか。教育実践において、「開示悟入」(法華経にある)を教育原理として体系化して提示する。教育界の実践研究だが、奥行きは広い。
時代は情報過多、喧騒が常態化し、タイパ・コスパ、攻撃的なSNS時代が加速化している。「有能な『駒』ではなく、賢明な『指し手』に」と指摘しているが、人間教育、人間学がますます大切となっている。その意味で、本書は警世の書でもある。
