「イスラーム革命から核問題、対イスラエル戦争まで」が副題。2月28日からの米・イスラエルによるイラン軍事攻撃、イランによる報復攻撃の連鎖が続いている。最高指導者ハーメネイー師が殺害され、後継者選びの会議の場所まで爆撃された。周辺諸国にもイランの攻撃があり、ホルムズ海峡もイラン革命防衛隊によって封鎖された。中東情勢は極めて危険な局面となり、世界経済への影響は大きく、できる限り速い収束が切望される。
本書の発刊は、昨年11月25日。「なぜ今、激しい戦争が起きているのか」「反アメリカ、反イスラエルのシーア派国家は、いかに作られたか」「1979年のホメイニー師を中心としたイラン・イスラーム革命で発足した『イラン・イスラーム共和国』の政治・経済・社会がどのように展開してきたのか」――そのまさに今の問題に、イランの現代史を丁寧に分析することによって迫る。
想像を絶する苦難と戦争の歴史だ。「今回の攻撃は国際法に違反した攻撃」などという"論理"が及ばない、ずっと攻撃・報復の戦争が続いており、国内では激しい政権抗争が行われ、経済は常に驚くべき高インフレ等で生活は困窮し、「経済封鎖」はそれを増幅させる。国民の不安と不満は激しい抗議行動を巻き起こした。昨年6月のイスラエルによるイランへの大規模な攻撃(12日間戦争)、トランプの米国もイランの各施設を爆撃、昨年末からのイラン国内の抗議行動でも弾圧によって何千人もの人が犠牲となっているという。ずっとそうしたことが繰り返されてきて、今回の戦争なのだ。
1979年革命前の冷戦下のイランは英国支配力の衰退とソ連の進出のなか米国との連携に乗り出す。イランではイスラーム法学者が思想的・精神的基盤となって重要な政治勢力を保持しているが、国王の専制強化が図られた。1979年、ホメイニー師は、国王の西洋化政策を批判、イスラーム法の執行主体である統治機関の樹立が必須であるとする(法学者の監督こそがイスラーム的に正当な統治)。成立した政治体制は「イスラーム共和制」。バーザルガーン暫定政権とホメイニー師の革命評議会と対峙する体制(「ホメイニー体制と革命勢力の角逐」)だ。
「イラン・イラク戦争とイスラーム共和体制」――1979年11月に米国大使館人質事件が発生し、イラン・米国関係は急激に悪化、12月にはソ連のアフガニスタン侵攻、1980年9月にイラクがイランの空港爆撃(イラン・イラク戦争)。イラクはイランの「革命の輸出」(イスラーム体制の浸透)を非難したのだ。イランの兵器確保と関連したイラン・コントラ事件を経て、「数々の陰謀を働いてきた大悪魔アメリカ」と「小悪魔イスラエル」が位置づけられる。1988年に停戦。翌年、ホメイニー師が死去する。
「ハーメネイー体制と政治的自由」――。ハーメネイー指導体制の発足、ラフサンジャーニー政権(1989〜97)は自由主義的経済政策をとったが、限界にも直面した。そしてハータミー政権(1997〜2005)。「文明の対話」による国際協調路線をとった。
「新保守派の台頭と『緑の運動』」――。2001年の同時多発テロ事件を受け、対テロ戦争が始められ、イランの核開発が問題視され、イランの国際的立場が難しくなるなかアフマディーネジャード政権(2005〜2013)となる。この時代の政治を著者は「ポピュリズム政治の台頭と混乱」と分析する。「被抑圧者」のための経済・社会福祉政策に邁進するが2008年のインフレ率は25%を超えた。国内で不満が充満するなか、諸外国への挑戦的姿勢(ウラン濃縮はイランの権利)をとるが、国際的孤立と「緑の運動」の抗議運動が起きる。窮地を脱しようとアフマディーネジャード政権は新自由主義的経済政策へ軌道修正するが、経済制裁もあって、爆発的なインフレ(2013年には32.9%)が起き、市民の不満も爆発する。
「防衛侵略と核問題」――。2013年、ロウハーニー政権(2013〜2021)が誕生、核問題は一旦解決が見られたが、革命防衛隊の中東域内の活動の活発化と弾道ミサイル開発はイスラエルなどの安全保障に脅威となり、そこに2017年トランプ政権が誕生、核合意からの離脱を表明した。経済制裁の復活は為替レートの変動と爆発的なインフレ率(2019年6月には40%以上)をもたらした。
終章として、「暗雲垂れ込めるイスラーム共和体制の未来」――。2021年ライースィー政権が誕生、欧米諸国と関係改善を図った前ロウハーニー政権から「東向き」に転換した。コロナ禍、ガザ戦争の勃発(2023年10月)、ライースィー大統領のヘリコプター墜落死(2024年5月)、ペゼシュキヤーン政権の発足・・・・・・」。ロシアのウクライナ侵略、第二次トランプ大統領・・・・・・」。
イラン・イスラム共和国の苦難と葛藤が浮き彫りにされる。
