「おなごの一生は坂道の連続。年齢が7の倍数となるごとに体が変わっていくともいう」「坂をひたすら上っているあいだは目の前しか見えないが、下りになるとぐっと視界が開けて、あちらこちらに目がいくようになる。下り坂でも道端に花が咲いているし、空ではお天道様が見守ってくだすっている。そうしたものに目を向けながら、ゆるゆると下っていけばいいんじゃないか。そんなふうに考えたら、残りの人生も捨てたもんじゃない」――。人生の七ッ下がり(午後四時過ぎ)となったニ人の女ーー水からくりの女(初音太夫)おはつ37歳、染物の型紙職人おもん41歳。たまたま出会ったニ人。「この齢になって肚を割って話せる友達ができるなんて想像してもみなかった」・・・・・・。
10代の頃、水からくりの女太夫として見世物小屋をいっぱいにしてきたおはつは、結婚を機に引退、子育てと介護をしてきたが、再び舞台に立ちたいと決心する。「おっ母さんが自分のことから逃げたから、何も残らないと思うんじゃないの。己が目指す星は己の手でとらまえなくては」と娘のおちかからも言われるが・・・・・・。「いましばらくは、己の胸に輝く星を追いかけていたい。ばあさんはすっ込んでいろとは、いわせないのだ」・・・・・・。
一方、仕事一筋、型紙職人として技巧を極めてきたおもん。歳をとるにつれ体力も腕前も落ちてきていることを実感し、先行きに不安を抱きつつ娘のおけいとともに生計を立ててきた。「体力や気力と折り合いをつけながらいくしかない」と医者は言い、「古臭いというか新味に欠ける気がする」とおけいは言う。誘われて、思い切って箱根の旅行に行く。すると型紙は一変、意表をつくものとなった。「空に浮かぶ雲なんだ」・・・・・・。「幾重にも曲がりくねった坂を上っていく。ニ人であれば、支え合って乗り越えられるし、下り坂も心細くないだろう」――。境地が一変する。
このおはつと、おもんがあるきっかけで、友達付き合いをすることに・・・・・・。ニ人の娘の結婚、おはつが隠れて付き合う男・新三郎との秘め事、再起ヘ頑張る初音太夫を応援する年配の旦那衆、二人の葛藤と感情のぶつかり・・・・・・。
江戸の市井で「七ッ下がりの女たち」の葛藤が周りの者の温かさの中で着地する。
