「学会では聞けない質問を松木先生にぶつけてみた」が副題。松木邦裕は精神分析家。日本精神分析協会会員、京都大学名誉教授。2009年から2025年まで、精神分析の知見と視点を学ぶことを目的とし、臨床家が参加して毎年開催された「松木邦弘セミナー」の質疑応答をまとめた「臨床談義」。人の心の真実や痛みに向き合い続けた精神分析家が率直、丁寧に語る。臨床談義の後の感想は、「明日も頑張っていこうと思った」「先生からエールをもらったように思う」などの声が多かったと言う。人に寄り添うとは、大変な努力と経験と生命力がいるものだと感じる。
「松木先生はなぜこの仕事、生き方を選んだのでしょうか?⇒自分のこころを含めて人のこころを知りたかった」「ストレス解消法教えていただけますか⇒音楽が好きなので、好きな音楽を聴く。広い浴場もいいですね」「先生が臨床実践の中で『うまくできている/うまくできた』と感じる時はありますか?⇒うまくいかなかった、ダメだったな、って思うことの方が多い」・・・・・・。
「自閉スペクトラム症、いわゆる発達障害をもつ人たちについての考えは?⇒たやすく決めつけてしまわず、パーソナリティーのありよう全体に目を向けておき、私たちは現在の精神分析での理解と技法で関わることが大切。行き詰まったり停滞したときに、患者の病理のせいにせず----」「松木先生が、これまでに扱いに困った陰性転移は?⇒陰性転移はみんな困りますね。これは治療的なチャンスだと思うけど、個人的にはすごく不快な苦痛なものですね」――大変な仕事であることが伝わってくる。
「精神病を持つ人との関わりに難しさを感じることは?⇒大変難しいです。本人の精神が壊れてしまう激しい恐怖に圧倒された人たちですから、話を観察する、語っている内容とその語り方を観察することだと思う」「人が成長するということについて、そしてその援助のあり方をどう考える?⇒良いところもまずいところもある自分を受け入れていく、それを手伝うのが私たちの援助。その人独自の不幸があり、生きづらさがあり、それが『解きようのないほどこんがらがっている』。現実を見ること、現実を見るまでのわからなさに長く持ちこたえる『ネガティブ・ケイパビリティ』が必要だ」と言う。
「ゲームに浸り、本は読まず。AIで宿題をする若い世代の人に精神分析は浸透できるのか?⇒そんなふうに若い人たちを思っちゃいけない」「松木先生が精神分析を通して持っておられる人間観を聞かせて欲しい⇒喪失や挫折を避けるだけじゃなくって、それを人生に必然的なものとしてその体験を自分なりに受け止める」「人間の心の健康について⇒ ①良いものを良いものとしてどんどん取り入れること②へこんだときに自分の良いところを見直し立ち直る『レジリアンス』③喪失や挫折が人生にはあり、解決法も見通しもわからないが、性急に答えを出さないで、苦痛を抱え持ち堪える『ネガティブ・ケイパビリティ』----この3つを備えることが大事」と言っている。
人生の臨床談義となっている。
