「『危機の時代』を歴史洞察する」が副題。「歴史は繰り返さないが韻を踏む(マーク・トウェイン)」――。「世界が、100年前の時代と似ている。何か、どこか、韻を踏んでいる」と船橋さん等は感じ、石橋湛山から「今、目前にある危機脱出のヒント」を探る。各界の第一人者10人がそれぞれ専門の角度から論じた著作。
1920〜30年代の世界と日本。第一次世界大戦後、新たに設立された国際連盟は、安定的な国際秩序とバランス・オブ・パワーを作り出せず、世界恐慌からの経済不況も不安と不安定を加速させ、第二次世界大戦に突入することに帰着する。日本は経済不況と大陸への勢力圏拡大へと突き進み、満州事変からの15年戦争への泥沼に入る。「国際経済では、米中ともに、市場とサプライチェーン、そしてデジタル、AI、バイオ、クリプト、エネルギー・ 鉱物資源の市場占有権と影響力効果(そして経済的威圧)を極大化する経済の武器化を追求している。その過程で米中の経済デカップリングが進んでいる。一方、国内政治では欧米ともに反エリート、反移民、反多様性のポピュリズムと、排他的ナショナリズムが広がり、中道政治が瓦解し、左右の過激主義政党・勢力が勢いを増している」と船橋さんはまず言う。石橋湛山の「小日本主義」論、「一切を棄つるの覚悟」、「地政学と経済利害を踏まえた湛山のリアリズム」、「社会を敵味方に分断するポピュリズムへの戒め」等、湛山の揺るがぬ思想と行動が抽出される。船橋さんは、「日本に今、最も必要なのは『政治人間』として鍛え抜かれた政治指導者のリアリズムである」と言う。
「日本の政府・軍、そして国民が、勝利に酔いしれて誇大欲求を掲げることのないよう戒めた」「他者と和をなしたければ、他者と利益を分かち合わなければならないという湛山流平和論」「帝国日本の大東亜共栄圏に似た習近平の『一帯一路』」(益尾知佐子)・・・・・・。
「ワシントン会議と『一切を棄つるの覚悟』」「『アメリカの世紀』の黄昏に立ち会っている今、国際秩序をあきらめないために、湛山の大胆な構想は今こそ真摯に顧みられるべきだろう」(三牧聖子)・・・・・・。
中国をどう観るか。これはいつの時代も日本には重要。「湛山は中国を『独立国』だと措定しながら『自国を統治する能力』がない、とみなし、日本の『真似をしている』と言いながら『文明国と同等の』実力を養おうとしない、と断じていた。まさしく矛盾である。・・・・・・第一次大戦時の『小日本主義』から主張は一貫して変わらなかった。しかし利権『放棄』の主張の論拠をなす中国観自体に矛盾をはらんでいては、その説得力は減退せざるを得ない」(岡本隆司)・・・・・・。
「大欲を満すが為に、小欲を棄てよ」「小日本主義」「満蒙の権益は不要」「(日本の国防線は)日本海にて十分」「我らは曖昧の道徳家であってはならぬ、徹底した功利主義者でなければならぬ」と湛山は言う。しかし今、「20世紀初頭からの『極東1905年体制』が揺らぎつつあり、しかも同体制に代わって、すべての関係国・地域が同意できる新たな地域秩序の形成が見通せない。湛山以上の知的格闘が求められている」(千々和泰明)・・・・・・。
湛山は日中米ソ平和同盟構想」を唱えるが、今日、「国家が『理に従い義によって』行動する事は、かつて以上に容易なことではない。それでも湛山のこの構想は、日本外交におけるオルタナティブを考えるための座標として、今も光を保ち続けている」(井上正也)・・・・・・。
湛山はポピュリズムが、超国家主義を後押しする時代に抗った。「言論機関の任務は極端なる議論に対して中和性を与え健全なる輿論の存在を知らしめる点に存する」と湛山は言うが、超個人主義、それ以上にデジタル・ポピュリズムが席捲する現在だ。「これらの湛山の知見は傾聴に値する」(筒井清輝)・・・・・・。
「『責任なき政治家』は『世に於いて最も恐るべき者』」とした湛山。「信念を持ったリアリストの政治家がポピュリズムを抑制する」(境家史郎)・・・・・・。
湛山は浜口内閣の緊縮政策を批判し、消費減少を問題として「大に生産を興し消費を増進すべし」とした。「韻を踏んでいる問題」としては、リフレーション政策後の出口戦略。「高橋財政後の湛山の悲痛とも言える主張は、アベノミクスからの出口戦略の難しさをも教えている」「国民の生産力を基本とする経済思想」(牧野邦昭)・・・・・・。
「湛山は、ウィルソン主義者であると同時に、ベンサムに見られるような功利主義者でもあった」「『一切を棄つるの覚悟』で言う民族自決と脱植民地化」「湛山の『小日本主義』の外交思想は、戦後の日本外交の中に深く埋め込まれていった」「湛山は政治家に高い道徳や誠実さを求め、政治の世界がポピュリズムに堕落することを強く嫌悪していた」「いまだ湛山が期待していたようなリベラルな国際秩序は確立していない。湛山のプロジェクトは依然として未完である」(細谷雄一)・・・・・・。
世界秩序の混迷、世界経済の不安定、デジタル・ポピュリズムの跋扈を眼前にして考えされる諸論文だ。
