「ふつうが一番」と思うが、外から見て「ふつう」でも、いろいろあるものだ。いろいろあっても、互いが相手を大事に思い合っている、根っこに家族愛があることが大事だとしみじみ思わせる良い小説。
湘南の地にある一戸建てに住む桜石和則と冴子のアラ還夫婦。そこに社会人の息子・海と大学生の娘・舞花が帰省する。100年に1度と言われる巨大台風が襲来、大雨特別警報など特別警報が軒並み出る。そんな緊迫した夜、「ふつうの家族」に突如現れたのは、びしょ濡れの正体不明の若い男。高熱を出して、倒れ込んだ男は家族の誰かが引き入れたに違いないが、誰が何のために入れたのか。疑心暗鬼の中で、停電となるが・・・・・・。
一見、幸せそうな「ふつうの家族」だが、実はそれぞれが人に言えない秘密や悩みを抱えていた。それが正体不明な若者と嵐の夜、停電の中で炙り出されていく。電気メーカー勤務の元部長のエリートの父・和則ーーしかし昭和のモーレツ社員、パワハラまがいの指導性で這い上がってきたが、大学時代の親友・ 弘中の自殺でショックを受け、今は窓際となっていた。
妻の冴子ーー広告代理店のやり手だったが、今は専業主婦。郷里・香川時代の昔の恋人・邦夫から最近メールが入るようになっていた。社会人3年目の海――鉄道の一流企業をやめ、何度も転職したが、今は無職で金がない。もちろん家族には言ってない。大学3年生の舞花――ずっと体操に打ち込んできたが、膝を痛めて、今は愛好会に所属。その友達・悠とルームシェア、愛をささやかれている。もちろん家族は知らないことだ。
描かれるのは、昭和のモーレツ社員と「ワークよりライフを重んじる」令和の若者との世代ギャップ。「うへぇ、昭和の男はいいよなぁ。現役の間は会社にだけ行ってればいいんだもん。令和の男はつらいよ、仕事も家事も育児も、同時進行で全部完璧にこなしてこそ一人前――こんなんじゃぁ結婚に夢なんて持てねえよ」・・・・・・。
突如飛び込んできた正体不明の若い男だったが・・・・・・。4人とも、どこかで会ったような気がしてくる。そしてその正体は・・・・・・。「ふつうの家族」の有り難さがじわっと浮き彫りにされてくる・・・・・・。
とても良い小説。
