「ほんとうに、読んでばっかいます」と言う江國香織さん。小説や作家についての書評や解説、そして所感、随想をまとめた著作。日本のみならず外国の小説も多数ある。よくある書評、解説とは次元を異にし、ワクワク感が伝わり、文章表現もなんとも鮮やか、冴えわたっている。出てくる本を何冊か買った。
庄野潤三、瀬戸内寂聴、石井桃子(いしいももこ)、佐野洋子、谷川俊太郎、川上弘美、金原ひとみ、川上未映子、北村薫、小川洋子・・・・・・。ビアトリクス・ポター、アリス・アトリー、ジョン・アーヴィング、ピーター・キャメロン----。私は外国の小説はあまり読まないが、江國さんはそれも自由自在、「読んでばっか」そのものだ。読書家はいつでもどこでも読んでいるものだ。面白いし、この世は知らないことばかりだ。
「私がはじめてお会いしたとき、寂聴さんはすでにいまとおなじ、すっきりと丸い頭をしておられた(白いドレス)」――。最初の一行が、どれもとても良い。そして「まー、香織ちゃん、大きくなったわねー」「あのね、あなた、物を書くにはストリップする度胸が必要なのよ」・・・・・・。「石井桃子(いしいももこ)という名前は私にとって昔から、親しい、特別なものだった」「石井さんの書かれる日本語はすてきだ」「石井桃子さん出現以前と以後があると私は思っていて、自分が以後に生れたことに、とても感謝している」「石井桃子さんが生活をたくさん楽しんだ人でよかった」「書物というのがどんなに豊かで幸福なものか、石井桃子さんほどふんだんに教えてくれる人は他にいない」・・・・・・。
「20世紀全半のロンドンに住む少女ペネロピーが、16世紀のダービシャーに何度も滑り込んでしまうこの物語の、ためいきが出るようなおもしろさと、繊細な美しさを、どう言えばいいだろう(アリスン・アトリー『時の旅人』)」・・・・・・。「庄野潤三さんの文章世界には、純粋な読む喜びがある。・・・・・・ひっそりと在る。唯一無二(庄野潤三さんの文章世界)」・・・・・・。「須賀敦子さんの脚本を読んでいると、どうしてだろう、雨が降っている気分になる(雨の日を繙く)」・・・・・・。「佐野洋子さんは私にとって、ずっと"あの妹"だった。『わたしが妹だったとき』という本が大好きだったからだ」・・・・・・。
「ご本人に何度かお会いしていてもなお、川上未映子さんが生身の肉体を持った一人の人間であることが、私にはどうも納得がいかない。生身の人間に、あんなふうに言葉をマジカルに――天然資源の奔流的な、野蛮さとのびやかさをもって――扱えるのだろうか。私は川上さんの新刊を読むたびに驚愕し、この人は何?精霊?妖怪?言葉の化身か何かなのか?と思う」と言っているが、そのまま江國さんにお返ししたい。「金原ひとみさんのこと」では、「ありあまるエネルギーを内側に秘めている子猫」と言い、「最近の彼女の小説を読めばすぐにわかる。ますます猫の目が輝き、爪が鋭くなっている」・・・・・・。
「一冊まるごと全部が、言葉にならないはずのものでできている。・・・・・・一編ずつが、しずかな奇蹟だと私は思う(川上未映子『愛の夢とか』)」・・・・・・。「わくわくする本だ(北村薫『水 本の小説』)」・・・・・・。「この野蛮で色鮮やかな小説の魅力を、どう伝えたらいいだろう(ドナルド・レイ・ポロック『悪魔はいつもそこに』)」・・・・・・。
「自由だなあ。最初にこの本を読んだ時、そう思ったことを覚えている。融通無碍。佐野さんの筆は、刃の光る裁断バサミで、布を切るときのような緊張感と何気なさで、じょりじょりと物語を切りとる(佐野洋子『そうはいかない』)読者は、蜂の巣である」・・・・・・。
抜け出た作家と小説を丁寧に両手で包んで出してくれている。圧倒的だが、そんな気がした。
