イベリコ豚を求めてスペインに足を運んだノンフィクション作家の野地さん。それがどんどん進んで、日本でイベリコ豚のハムを作り上げ、製造販売に至る。その感動の物語。押し寄せる難題、つながる人の連鎖。「ハムが作れるとは想像したこともなかった。・・・・・・商品を作るのは能力ではない。情熱だ」「おいしい食品になるかどうかは、最終的には経営者の魂だ。完璧なものを作れるかどうかは理屈じゃない、魂だ。食べ物のブランドは経営者が作るものだ」「リーダーには熱い気持ちがなくてはダメだ。『絶対に何とかしてやる』という気持ちを持つことだ。リーダーはとぼとぼと歩いてはいかん。『湯気が出ている背中』を下の人間に見せなくてはいかん」「プラド美術館にあるゴヤの黒いシリーズにある『砂に埋もれる犬』----。絵を見た人は沈鬱になって展示室から出てくるのだろう。けれど、私は逆だった」・・・・・・。みんな砂に埋もれないように、懸命に手足を動かして生きている。「意気軒高になって、『ハムを毎年、売らなければ』とそれだけを念じてホテルに向かった」と言っている。イベリコ豚を追い求めるとともに、ハム作りまで行ってしまった著者のノンフィクション。
「イベリコ豚は、スペインのイベリア半島固有の畜種、イベリカ種」「イベリコ豚は生産効率を追求した豚ではない。放牧で時間をかけて育てる」「どんぐりを食べる豚と言うが、樫の木の熟した実を食べる(樫の実が落ちる12月から3月位までの4ヶ月のシーズン)」「最高級のイベリコ豚は純イベリカ種のベジョータ)」「一般の豚の場合、母豚は1年に25頭〜30頭(1年に2度の出産)だが、イベリコ豚はせいぜい15頭」「日本では一般には、どんぐりを食べるベジョータと呼ばれるものだけがイベリコ豚と思われているが、どんぐりを食べさせられていないセポというイベリコ豚もいる(どんぐりの収穫量が少ない時、大麦や小麦の穀物を食べて育てるイベリコ豚)」・・・・・・。野地さんは、スペインで放牧場、屠場、食肉加工場を回る。「どんぐりを食べているイベリコ豚は1割しかいないし、その生ハムはもっと少ないとは驚くべき話だった」「生ハムは切ってすぐ食べるのではなく、常温で温め、脂肪が溶けてから食べるもの。脂肪が溶け出さない生ハムは質が良いとは言えない」「日本でどんぐりを食べるベジョータの生ハム、精肉、加工品を国内で食べたことのある人は非常に少ない」・・・・・・。
イベリコ豚取材はとてもうまくいったが、「レヒーノから、2頭のイベリコ豚を購入することとなった」のだ。そして「輸入業者を探す」「イベリコ豚を使った新製品を開発する」「販売手段を考えて売り出す」という新たな3つの仕事が待ち受ける。本書の後半覇権まさにこの3つの新たな仕事で悪戦苦闘する姿が描かれる。小説ではない。本当の話。これがまた実に感動的。「夢を持ち、叶える」男たちの連携の姿、知恵・創造の姿、食文化にかける人たちの姿、そして経営というものの本質が描かれる。人の連鎖の感動である。
約10年前の著作だが、今も生々しい。イベリコ豚を何度も食したが、これからはイベリコ豚をちゃんと食べなければ、と思った。
