シュレディンガーが、量子力学におけるコペンハーゲン解釈に投げかけた「シュレディンガーの猫」――。「箱を開けて観測した時、波動関数が収束して、猫の生死の状態が定まる」・・・・・・。そんな「誰かが密室の中を観測した時、2人の生死は収束し確定する」というまさしく「シュレディンガーの密室」とも言うべき、恐るべき事件が起きてしまった。
長野県の山中深くにある「蓮田生物学研究所」。iPS細胞を軸にした再生医療の研究所で、所長は菅家或人、資金提供して造らせたのは大門バイオメディカル社長の大門公一。
「お兄ちゃんに、大事な話がある」――菅家の養女となった妹の美羽からたった一行のメールを受け取って、フリーライターの朝倉匠は研究所に向かった。そこにいたのは菅家所長、志木沢副所長、研究員の名波、天野、ジュリエット・ピコ、医師の二場、そこに加わった研究者の羽々崎の8人。さらに大門社長、秘書の津雲、大門の親戚の霧谷円香の3人。この日、総勢11人がいた。そして円香は朝倉匠に「わたしの生まれた秘密を、調べてくれませんか」と突然言うのだった。
激しい豪雨となり、その夜突然、大規模な土石流が研究所を襲う。孤立した研究所、埋まった1階の実験室Eには、美羽と円香が取り残される。猛毒の硫化水素が1階のその実験室の周りには充満、部屋に突入すれば、入り口から硫化水素が入って2人は死ぬ。「中の2人が生きているなら――ドアを開けた瞬間、2人ともガスで死ぬ。開けてはならない。しかし2人が死んでいるなら、一刻も早く、遺体の臓器を回収しなければならない」。円香は、腎臓が悪く限界に達している大門のドナーで、死亡した後48時間以内の移植が必要だったのだ。突入か様子見か――意見は真っ二つ。まさに「シュレディンガーの密室」。山中は道路寸断、救援の手は望めない。
緊迫したなか、なんと所長の菅家が殺される。そして美羽の婚約者名波(美羽はそのことをお兄ちゃんに知らせたかったのか?) も突き落とされて死亡する・・・・・・。「誰が突入し、誰を救うのか(ガスマスクは1つしかなかった)」「円香の出生の秘密とは」「いかなる秘密研究が、ここで行われていたのか」「殺人事件はなぜ起きたのか」・・・・・・。緊迫した凄まじい展開と驚くべき結末、どんでん返しへ・・・・・・。
「読者が本書の『扉』を開いた時、あるいはこの『あとがき』の扉を開いた時、物語は観測され、結末が収束し、確定する。結局のところあらゆる物語は、本質的にシュレディンガーの猫のような構造を合わせ持っているのかもしれない」――。人生とは選択の連続、決断の連続だ。「誰もが無数の選択の上に立ち生きている。ひとつ選び取るたび、世界は変わる。正解などわからない。だが、それでも決断せねばならない」「観測者はいつだって自分だ」と結んでいる。量子力学の「シュレディンガーの猫」は、「パラレルワールド」「量子もつれ」へと、宇宙と生命の本質に突き進んでいる。人生論に還元するのは、次元を異にするが、人生は決断の連続であることは間違いない。
