「『デュアルユース問題』とは何か?」が副題。デュアルユース技術とは、軍事目的と民生目的のいずれにも利用できる技術。そのいずれにも利用されてしまう状況を問題視するのがデュアルユース問題だ。「ロケットは宇宙開発の夢を運ぶ一方で、弾道ミサイルにもなる。バイオテクノロジーは、病気の治療に貢献する一方で、生物兵器の脅威もはらんでいる。ロボットは未来技術の象徴だが、AIを搭載したロボットは兵器にもなり得る」のだ。ウクライナを見ても、ドローンが主要兵器となっており、土木・建築の世界でドローンを有効な防災・減災・国土強靭化の技術として使っている者にとって、その恩恵と危害は直面した問題である。同じ技術が善と悪の両面を有する問題が、「善悪デュアルユース問題」である。
科学技術を禁止することは非現実的だが、全てを「仕方がない」と放置するのも非現実的。「科学技術を人々にどのくらい開放し制限するか、危害をどのくらい許容し拒絶するか、この線引きを探る境界問題といえる。そのため、技術の細部に立ち入ることが不可欠です」と言う。
「人間が想像できることは人間が必ず実現できる(SF作家ジュール・ヴェルヌ)」は事実だが、「2010年代前半までは『宇宙は軍事化されているが、武装化されていない』と言われたが、ここ10年、『軍事化から武装化へと時代が進展した』という見方が強まっている」と言う。
まず取り上げられているのが、「宇宙技術」――。GPSは、米国と同盟国のための軍事システムだった。これが今、民間に解放されている。民間開放のきっかけは、1983年の大韓航空機撃墜事件。ところがそのまま受け入れるというより、米国の都合で突然使用が停止する可能性をありとして、各国は米国のGPSを利用しつつ、自前の測位衛星を打ち上げ自前のGPSを構築しつつある。気象観測衛星も、起源は偵察衛星。米国は、独自の通信衛星を保有しているが、イーロン・マスクのスペースXのスターリンクは、無数の小型衛星をつなぐことで、地球上のありとあらゆるところから通信を可能にし、ウクライナ戦争でもロシアによって破壊されたウクライナ軍の通信網の代わりに、スターリングが通信網を代行した。宇宙における軍事活動も進んでおり、米国は2019年に第6軍として宇宙軍を誕生させた。日本も宇宙作戦集団が2026年度末に新編され、2027年度に航空宇宙自衛隊になる予定。軍事化から武装化の進展だ。
懸念されるのは宇宙ゴミ、いわゆるスペース・デブリの問題だ。兵器実験によるデブリ増加はこの10年顕著で予断を許さない。宇宙資源ビジネス、宇宙構造物も進む。軍事利用・テロ転用、地球に岩石を爆弾として撃ち込むマスドライバー、「コロニー落とし」など、宇宙の平和と軍事のディレンマが現在化してくる。
本書は、この「宇宙」に引き続き「バイオテクノロジー(バイオテクノロジーの恩恵、細菌やウィルスの軍事利用、生物テロの脅威)」「サイバー技術(現代のハッキング、マルウェアの登場と社会問題化、SNSの言論統制とダークウェブ、サイバー戦争の実践)」が語られる。
「A I」については、生成AIの誕生以来、局面は全く新しい段階に突入したと実感する。「ロボット・ドローン」の軍事利用は急速度だ。ウクライナ戦争で当初、ロシアが使用したドローンはイラン製のシャヘド。「撃墜したシャヘドを分解したところ、使用されている部品のうち、米国製の部品が55個、中国製の部品が15個、スイス製の部品が13個、日本製の部品が6個含まれていたとのこと」と言う。最新鋭のものは自律化が進んでいる。
「最終的に方針を決めるのは社会、すなわち私たち自身です。静穏・勇気・知恵を念頭に置きつつ、技術の未来を想像力で補完しながら、先手先手で対策していくより、他に道はないのだ」と言う。テクノロジーの最先端、全領域にわたる恩恵と危害----ますます苦悩と危機は深い。
