1790514414341.jpg「信頼のセーフティネットは可能か」が副題。高度経済成長の緒についた1961年、「国民皆保険・皆年金」を他国に先駆けて築き上げた日本は、税財源を投入し保険料負担を軽減するなどの工夫を凝らして社会保障制度を構築、国民を包摂するセーフティネットを作り上げてきた。大衆福祉の公明党の戦いでもあった。

しかし今、人口減少・少子高齢社会の進行によって、現役世代1人が高齢者1人を支える「肩車社会」が迫り、非正規労働者の増大、一人暮らし(若者も高齢者も)の増加、実質賃金が上がらない、困窮や孤立が広がるなどの数々の要因により、若者を中心にして制度不信が高まっている。そこで、「減税と保険料引き下げ」が焦点となったり、「外国人が生活保護で不当に潤っている」「高齢者が過剰な給付を得ている」などの言説が増幅されている。デジタル・ポピュリズムの影響もある。これら時代の変化を正面から受け、「岐路に立つ戦後社会保障」の観点から、単に生活・生存のセーフティネットではなく、雇用や対人支援を含めた「広義のセーフティーネット」「信頼のセーフティネット」をどう構築するかを提示する。

日本のセーフティーネットは、①安定雇用と連携した社会保険、② ①が困難になった人を就労に戻すことを重視した対人支援サービス、③生活保護ーーの三層で構成されている。「雇用のセーフティネット」は解雇されにくい仕掛け(解雇のハードル、年功賃金、企業内福祉厚生)、「社会保険のセーフティネット」は皆保険・皆年金と多額の税財源投入、「生活保護のセーフティネット」はハードルが高い(捕捉率は20%から30%)(恥ずかしいと言うスティグマがある)----などの特徴を持つ。しかしそうしたなか、安定雇用が揺らぎ、非正規雇用、ひとり親などの「新しい生活困難層」が増大していった。長く続いたデフレの中で、企業は「雇用重視、低賃金」の姿勢を取り、社会保険料は逆進性が強いため、低所得層ほど重荷になる。日本は「中福祉・やや低負担」だが、低所得の働く世帯に限れば「低福祉・高負担」の状況になったのだ。現役世代、特に若い世代の制度不信が強くなる所以だ。

この10年余の「社会保障と税の一体改革」「子育て支援」「全世代型社会保障」は、その是正への取り組みだ。給付と負担のバランスを全世代で調整することが急務となっている。

加えてフィルターバブルやエコーチェンバー、デジタル・ポピュリズムの今日、対応が難しくなる。しかしだからこそ、しっかりしたセーフティネット再構成の筋道がどうしても必要となるのだ。

しかも、格差が広がっている。企業間、企業内、地域間の不均衡、資産、世代間の格差があり、なかでも「尊重の格差」「承認の格差」「孤独の広がり」が指摘されている。格差拡大のなかこれからの「広義のセーフティネット」をどう再構築するかの課題だ。

「三層のセーフティネット」――。①安定就労+社会保険②生活困窮者自立支援制度+求職者支援制度③生活保護----。②は③になる前に①にする仕組みだ。就職氷河期世代には特に大事になる。 

子育て支援対策、世代型社会保障、異次元の少少子化対策、雇用の流動化と同一労働同一賃金、自立の就労支援、求職者支援制度、働き方改革・・・・・・。様々やってきているが、「セーフティネットの張り直し、改革がなぜうまくいかないのか。それは社会保障と雇用の改革がバラバラだ。連動しない改革群」「既存制度の凝集力、拘束力が強い」「包括的な戦略の欠落」だと指摘する。

そこでセーフティネットを蘇らせる「三位一体の社会保障改革」を提起する。それは、①雇用機会の拡充(エッセンシャルワークのアドバンスト化=先進化・ユニバーサル化等) ②所得保障(社会保険、給付付き税額控除、生活保護等) ③対人支援サービス(医療・介護・保育等の連携、地域共生社会の包括的支援体制等)----と言う。①の雇用機会の拡充は岸田政権の「三位一体の労働市場改革(リスキリング、営業実態に応じた職務給の導入、労働移動の円滑化)」の方向性だが、様々な困難は当然ある。特にエッセンシャルワークの先進化は最重要な課題である。「AIの実装、価値労働生産性の向上、専門性を高め、賃上げをする」ことと、「誰もが働けるように職場や業務のあり方を変えていくこと(ユニバーサル化)が極めて大事だ」と強調する。②の所得保障については、給付付き税額控除等を示す。③の対人支援サービスについては地域で相談できる「場」作りなど、地域共生社会づくりが大事となる。

社会が大きく構造変化するなか、いかに「広義のセーフティネット」を再建するか――。「起点としてのエッセンシャルワーク」「社会保険制度を現代化する」「承認機会を広げる」を重ねて提起している。今、「社会保障改革の岐路」に立っていることの自覚、この難題をトータルに把握し、再構築に取り組む肺活量が重要だと感じる。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ