「イラン侵攻は何をもたらすのか」が副題。2026年2月28日、アメリカ・イスラエルによるイラン侵攻は、何のための、誰のための戦争なのか。国際政治、国際経済が構造的に変化するなか、日本はこの岐路にどう立ち向かっていくべきか。イラン戦争の意味するものと、複雑に絡み合う歴史構造を、各分野の第一人者12名がその専門から剔抉する著作。
「人々がトランプに期待したのは、むやみやたらと覇権を求めず、国内問題に注力するアメリカだったが、中東への軍事介入に乗り出した」「イラン戦争は、アメリカの国益のために行われた戦争でも、アメリカ市民の広範な支持に支えられた戦争でもなく、『トランプの戦争』であった」「開戦の決定に最も影響を与えたのはイスラエルのネタニヤフ首相。その意味でイラン戦争は『ネタニヤフの戦争』」「最大の誤算は、イランの強靭な抵抗。体制はむしろ強固になり、イランの核兵器保有への意思も固まり、ホルムズ海峡の封鎖という強力なカードを手に入れた」「トランプ政権は宗教的言説によって正当化ししてきたが、イランは現実には、宗教というより、それを文化とした近代国家として運営されている」「アメリカでも宗教多元主義をとってきた米軍の慣行から逸脱するものだ。イラン戦争を契機に、むしろ宗教が育んできた平和や共存のための多様な知恵に改めて目を向ける必要がある」と言う。
イラン戦争は「アメリカ覇権の終焉を決定的にするのではないか」「今、アメリカは国際秩序や世界経済を安定させようとする意思を持っていない。むしろ巨大な不安定要因になりつつある」「米中覇権争いの文脈で見れば、イラン戦争はアメリカの『オウンゴール』の指摘もある」「イラン戦争は公共財の提供者から秩序の撹乱者へと変貌するアメリカの姿を明るみに出した」と言う。
この中での日本の心すべきことを様々提起する。今回のエネルギー危機を踏まえ「資源小国」日本の中長期エネルギー戦略。日米関係は最重要の同盟関係であることに変わりはないとしても、米中関係と日中関係の認識の差異。基軸通貨ドルが衰えつつある今、官も民もアメリカ一極集中で投資を続ける惰性で良いのかなど、問題提起は多岐に渡り、危機感に満ちている。
国際法を軽視するトランプ政権とどう向き合うかの難しい問題もある。カナダのカーニー首相、イタリアのメローニ首相などの対トランプの発言があるが、北東アジアの安全保障環境はより厳しい。その中での外交・安保戦略をどうするか。リアリズムの名の下での惰性が許されなくなっていることも事実だ。加えて、「AI戦争の時代」は既に始まっており、「戦争の非人格化」「戦闘・戦場の非人格化」は、最大の問題として恐るべき時代に突入してしまっている。
「『危機』を直視するために」「イラン戦争とアメリカ」(三牧聖子)、「イスラエル――『イランの脅威』に取り憑かれた国家」(鈴木啓之)、「中東におけるイラン」(坂梨祥)、「イランは宗教国家か――イスラム共和体制のゆくえ」(黒田賢治)、「トランプの論理――神の名をめぐる闘争」(加藤喜之)、「覇権国不在の世界経済のゆくえ――1930年代型の混乱が続くのか」(河野龍太郎)、「中国の原則と行動ーーウクライナ戦争とイラン戦争における中国外交」(山口信治)、「ホルムズ海峡危機と『資源小国』日本」(白鳥潤一郎)、「高市政権の外交と日本の選択」(山本章子)、「グローバルサウスの多国間主義――アラカルトから規範的連帯へ」(根岸陽太)、「逆流する『対テロ戦争』――指導者殺害作戦について」(西平等)、「軍拡はAIからはじまる」(内田聖子)。いずれもテーマを絞って専門家が言及しており、極めて重要な発言。
